「舌を抜かれる女たち」書評 議会から職場まで差別発言の“あるある”
評者: 斎藤美奈子
/ 朝⽇新聞掲載:2020年02月01日
舌を抜かれる女たち
著者:メアリー・ビアード
出版社:晶文社
ジャンル:社会・時事
ISBN: 9784794971647
発売⽇: 2020/01/09
サイズ: 20cm/132p
舌を抜かれる女たち [著]メアリー・ビアード
男が女に〈黙れ、女は人前で発言してはならぬ〉と告げた最初の例は、3千年前のホメロスの叙事詩『オデュッセイア』だった。息子のテレマコスは母のペネロペイアにいった。人前で話すのは男の仕事だ。〈母上、今は部屋に戻って、糸巻きと機織りというご自分の仕事をなさってください〉。同様の思想が今も根強く残ることを、古典などの豊富な例から鮮やかにあぶり出した本である。
例外的に女性が発言を許されるのは、彼女が「女ではない」とみなされるか、女性の私的領域に関する発言の場合だけ。そのためマーガレット・サッチャーは低い声を出すトレーニングを受け、ヒラリー・クリントンはネット上のひどい悪意にさらされた。議会から職場まで、公の場での女性の発言を封じる力学!
男女平等度が世界最低ランク(121位)の日本も例外ではない。女性は「あるある」、男性は冷や汗タラーッ。女たちよ負けるなという静かなエールだ。