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君野隆久さん「捨身の仏教」インタビュー 仏教の自己犠牲、「捨身」の物語たどる 

京都造形芸術大教授の君野隆久さん=京都市中京区

 仏教の開祖である釈迦(しゃか)の前世での善行を記した「ジャータカ」と呼ばれる物語集がある。その中に、自らの身体を犠牲にして他者を救済する話が数多く含まれている。飢えた虎に我が身を差し出し、食べさせた話を描いた法隆寺の玉虫厨子の「捨身飼虎図(しゃしんしこず)」が有名だ。こうした自己犠牲の仏教説話が日本でどのように受容されたかをたどった『捨身の仏教』(角川選書)が昨秋出版された。

 著者は、君野隆久・京都造形芸術大教授。捨身は布施という利他の行為の極限だが、本来仏教は中道を重んじ、体を犠牲にする苦行を否定したはず、と指摘する。捨身を外道(げどう)として批判した僧もいたという。「仏教全体から見ると捨身は『鬼子』のような存在かもしれません」

 ジャータカの起源に関する様々な学説にも触れつつ、捨身の物語が日本の中世の説話や明恵(みょうえ)ら高僧の伝記、さらには近松門左衛門や宮沢賢治、手塚治虫らの作品にどのように採り入れられたかを追う。

 「人間の本能には攻撃性があるとされます。捨身物語はそれを抑え、慈悲へと形を変えさせるものかもしれません」(池田洋一郎)=朝日新聞2020年2月12日掲載