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角田光代さん「方舟を燃やす」に吉川英治文学賞 「締めきりに苦労した最後の連載、感慨深い」

吉川英治文学賞に決まり会見する作家の角田光代さん

 今年の吉川英治文学賞が角田光代さんの「方舟(はこぶね)を燃やす」(新潮社)に決まった。角田さんと同じ1967年生まれの飛馬と、戦後すぐに生まれた不三子の視点を通して、昭和から平成、令和のコロナ禍までの世相を描き、「信じる」ことの意味を問うた作品だ。

 「ちょっと大人の賞だと思っていて、自分とはあまり関係がないかなと。びっくりしました」。5日の記者会見の冒頭、角田さんは戸惑いの表情を見せた。

 「源氏物語」の現代語訳を数年がかりで終えて取り組んだ週刊誌での長編連載。「小説を書くことが以前とは非常に違う感触になってしまい、苦労した。本当に面白くないと思っていたのに賞をいただいて、自分の小説観が間違っているのではないかと、不安に思っています」

 物語では、口さけ女、ノストラダムスの大予言といったオカルト話、コロナワクチンをめぐるうわさやデマなどが、口伝えに、あるいはメディアやネットを通じて広まり、人々の価値観を揺さぶっていく。

 「かつて自分が間違っていると思わずに書いてきたことはとてもある。読み返してみて、間違ったなと思ったことは、公にはしなくても自分のなかで恐れずに認めていきたいなとは思います」

 本作を機に、出版社などからの依頼を受けて小説を書くことをやめた。

 「これからは自分で書きたいものを書きたいタイミングで書いていく。締めきりがあって苦労した最後の連載で賞をいただけて、感慨深いです」(野波健祐)=朝日新聞2025年3月12日掲載