モンスターパニック映画が好きだ。登場人物たちが恐ろしいモンスターに襲われつつ、それに立ち向かっていくといったジャンルの映画。しかし、それらを見るとき、私は期待に胸を膨らませて前のめりにスクリーンを眺めつつも、頭の片隅では常にこう思っている。「でも、〈あの作品〉を初めて見たときの衝撃と興奮は二度と味わえないんだろうな」と。
〈あの作品〉、それはモンスターパニック映画の先駆けにして、完成形といっても過言でない一作、「ジョーズ」である。
平和なビーチを襲う巨大な人食いホオジロザメと、それに挑む三人の男たちの戦いを若き天才、スティーブン・スピルバーグが描いた傑作。1975年に公開された映画ながら、その魅力はいま見ても全く色あせることはない。
「ジョーズ」が公開されてからの約四十五年で、映像技術は画期的な進歩を遂げた。現在ではCGを駆使すれば、どれほど巨大でおどろおどろしいモンスターも、現実に存在するかのようにリアルに描くことができる。しかし、いまだに「ジョーズ」の中で、はじめて巨大ホオジロザメがその姿を現すシーンをこえる衝撃に私は出合ったことがない。
ストーリーの前半では、その姿をほとんど見せることなく海水浴客たちを襲っていくサメ。はじめて「ジョーズ」を見た小学生の私は、恐怖に身をすくませながら、海中に潜んでいるのがどのような怪物なのか、必死に想像していた。
そして物語が中盤に差し掛かったころ、ついに巨大ホオジロザメが現れ、哀れな犠牲者を水中に引きずり込む。その姿を見たときの衝撃は、いまも昨日のことのように思い出すことができる。想像をはるかに凌駕した、あまりにも巨大で恐ろしい姿に、私は金縛りにあったようにただ画面を見つめることしかできなかった。
これまで、数多くのモンスターパニック映画を視聴してきた。その中には天を突くような巨大な怪物が登場するものもあったが、「ジョーズ」のホオジロザメの迫力を上回るものは皆無だ。それほどまでに、スピルバーグが生み出した稀代の怪物の存在感は圧倒的だった。
映画の後半では、三人の男たちが船に乗り、サメ退治に向かう。陸地の見えない大海原で繰り広げられる規格外の怪物との戦いは、息をするのも憚られるほどの緊張感と絶望に満ちていて、私も三人と一緒に巨大ホオジロザメと対峙しているかのような錯覚に襲われた。
CGなど存在しなかった時代に、これほど圧倒的な映像作品が生み出された事実はとても心強い。環境ではなく熱意と執念こそが、創作にとって最も重要であるということを示しているからである。そのことを胸に刻んで私も執筆にあたりたいと常々思っている。