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「ストリートアートの素顔」書評 壁の落書きが示す都市の思想

評者: 長谷川逸子 / 朝⽇新聞掲載:2020年04月11日
ストリートアートの素顔 ニューヨーク・ライティング文化 著者:大山エンリコイサム 出版社:青土社 ジャンル:芸術・アート

ISBN: 9784791772438
発売⽇: 2020/01/27
サイズ: 21cm/252p

ストリートアートの素顔 ニューヨーク・ライティング文化 [著]大山エンリコイサム

 著者はニューヨークで活躍するグラフィティ(落書き)アーティストである。ストリートアーティスト12人を取り上げ、一人ひとりの履歴や活動を紹介している。そして、世界中に広がった落書きはニューヨークから始まったことを知らせている。
 グローバル化によって世界の都市は、スカイスクレイパー(摩天楼)が立ち並ぶようになった。グランドレベルの商業建築は時代の流れを取り込み、変化を繰り返している。取り残された時代の産物としての高架下のコンクリート壁や工場地帯、倉庫街の壁建築は、落書きのキャンバスになりやすかった。その落書きは、都市の抱える人たちの思想や社会問題を表してきた。
 私はニューヨークへ頻繁に行っていた2000年ごろ、美術館の人からキース・ヘリングら有名なストリートアーティストのことをよく聞いた。本書では、作家たちにインタビューなどをして、丁寧に記述している。
 例えばフューチュラ2000。列車の車体まるごとに描き、アニエス・ベーやジェームス・ラヴェルとファッションや音楽でコラボレーションするなど、多彩な活動をしてきたという。バスキアはピカソやアフリカ美術に感化され、黒人や文字、王冠などのモチーフを組み合わせた具象画を手がけた。子供の落書きを思わせる若さや「無垢さ」「野生」を記号的に表現した。
 私自身も、まちなかでアートを見せたことがある。私が設計し、1979年に竣工した松山市の小児科では、立ち並ぶバーに面した入り口にコンクリートの壁を建て、芸術家の高松次郎さんからいただいた直線と曲線のスケッチを映した。残念ながら数年前に壊されてしまったが、このストリートアートがまちに美しさを伝えたことは確かだ。
 東京にも壁面づくりにアーティストが参加したら、どんな都市が生まれるだろうと想像する。
    ◇
 おおやま・えんりこいさむ 1983年生まれ。エアロゾル・ライティングを再解釈した技法で壁画などを発表。