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在宅勤務12年のコツ 湊かなえ

 小説家になって12年、執筆は外部に仕事部屋を設けず、自宅で行っています。そんな私に先日、在宅勤務になった出版社の編集者(既婚・子どもあり)の方から、その道のプロとしてアドバイスをいただけないか、と言われました。

 まず思いついたのは、仕事専用のスペースを確保することです。書斎や個室があればいいけれど、ない場合は、衝立(ついたて)や、突っ張り棒とカーテンを組み合わせたものなどで、リビングやキッチンの片隅を、1畳分でもいいから仕切ってみる。

 私の最初の仕事場は、キッチンと洗面所を結ぶ2畳の空間でした。家を建てる際、業者の方から、家事の合間に、パソコン作業や読書ができる場所、通称「奥様うきうきスペース」を提案され、手芸が好きなのでミシンを使う場所があればいいなと思い、作ってもらうことにしました。

 半分は洗濯物を干すスペースなので、実質1畳。細長いミシン用の台を置き、そこで、脚本や小説を書き始め、今の自分に至ります。

 もともと狭い空間と相性がいいのか、集中できて、仕事がはかどる、はかどる。コンロにかけていたカレーの鍋の水分が全部なくなってしまったこともしばしば。カラの炊飯器から携帯電話、冷蔵庫からUSBメモリーが出てきたことも。

 私の部屋なので、旦那と子どもは立ち入り禁止です。ガム以外、お茶やお菓子などの飲食物はいっさい持ちこみません。休憩は別の場所で。仕事以外のことはしない。

 今は5畳の仕事部屋を作っていますが、締め切り間際は「奥様うきうきスペース」で書くことの方が多いです。リビングから子どもが見ているテレビの音が聴こえます。それをうるさいとは感じません。仕事中だということを理解して、距離をとってくれているのだなと思えます。

 結局、在宅勤務は家族の理解と協力の上で成り立つものなので、仕事に一区切りついたら「ありがとう」と声をかけるのが、一番大事なことではないでしょうか。=朝日新聞2020年4月22日掲載