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蒼井そらさんインタビュー モデル小説「夜が明けたら 蒼井そら」に描かれた「まっとうしてきた人生」

文:玖保樹鈴 写真:初沢亜利

「ごく普通の子だったんだけど…」

――これまでも『そら模様』(講談社)や『ぶっちゃけ蒼井そら』(ベストセラーズ)など、ご自身のことを書いた本はありました。今回、事実を元にしたフィクションの出版をOKした理由は?

 今回は「事実をベースにした、そらさんのフィクションを書きたい」というお話を頂いたんです。最初は「私は普通の生活をしてきた、ごく普通の子だったんだけどなあ」と思ったんですけど、担当編集の方とお話をした時に「蒼井そらの人生を書いたら、背中を押される女性はきっとたくさんいるはず」と熱心に言われて。

 だんだん自分も「これまでの人生を、私はまっとうして生きてきたんだな」と思うようになって。自分の人生にどれだけのメッセージ性があるのかはわからないけれど、物語にして誰かに伝えてみてもいいかなと思ったんです。

――『夜が明けたら 蒼井そら』では「山本ジュン」という女性が、葛藤しながらもAVに出演して人気を獲得する過程が描かれています。

 私自身、もともとAV女優になりたかったわけではなくて、でもやるからには有名になって、飯島愛さんみたいにメジャーな場所に行きたいってすごく思っていました。飯島愛さんはそんな私にとって特別な存在で、一つの目標でもありましたから、お話してみたいなってずっと思ってました。

 でも誰かを目標にすると、その人を超えられなくなってしまうって気持ちがあったので、飯島愛さんみたいになりたいとは思いませんでした。AVを足掛かりに、飯島さんとは違う道で先駆者になりたい、道を拓きたいってすごく思っていて、ずっと頑張ってきたっていうのはあります。

精神的につらい仕事、支えるのは…

――「蒼井そら」はAVに出演していた時から、多くの女性の支持を集めていました。同性から認められた理由は何だったと思いますか?

 多分それは、テレビの力だと思います。深夜ドラマにレギュラーで出演させてもらった時に、絶対に私のファンにはなってくれないだろうと思っていた30代半ばから50代ぐらいの女性が、私を知ってくださったんです。

――心身ともに疲弊する仕事を続け、夢を叶えられたのは、何があったからだと思いますか?

 AVは精神的に辛い職業で体力勝負だし、デリケートな部分も多い、ただ愉快にセックスしているだけの仕事じゃないんです。だから精神的にふさぎ込んでしまう時期が来るものなんですが、そういう時に支えてくれる人の存在は、とても大事です。そしてそれは絶対、彼氏じゃないんです。彼氏は逆で、絶対わかってもらえないものなんです。

 私にとっては、マネージャーとの信頼関係が大きかったと思います。何かあったらバトったりもしてきましたし、何でも話せる関係だったので、今もAVに出ていた頃と同じ事務所にお世話になっています。

――登場人物はほとんどが実名ではないですが、「もしかしたらこの人かな?」と思ってしまう人もいます。中でも、ひどいモラハラをしていたという元カレは、相当憶測を生むと思うのですが……。

 この人に限らず、小説内の登場人物には脚色があります。ですが、モラハラ男について言及するならば、今は自分の中で「そんなこともあったな」ぐらいに受けとめています。その頃はまだモラハラっていう言葉が浸透していなくて、友達に話したら「それって言葉のDVじゃない?」って言われて、ようやく「そうかもしれない」って思って。暴力を振るわれたらすぐにDVだと気づくものですけど、言葉の暴力って気づきにくいものなんですね。

 本の中でジュンがカレーを作った時に、豚肉を入れたら「カレーつったら牛肉だろ! 育ちが悪いな。お前は!」と言われる場面が出てきます。これは本当にあったことなのですが、読み返してみたら、「すごいことをされてきたんだな」って改めて思いました。本当に、気づけて良かったと思います。今ではもう過去のことでしかないですけど、書かれた本人は多分、これを読んでも自分だと思わないんじゃないかな?

誹謗中傷には「よい言葉だけを覚えておく」

――AV出演の過去の話をする一方で、昨年、過去の作品を販売停止にしたことがニュースになりました。それに対して「ムシが良すぎる」「誇りを持ってAVに出演していたのでは」というネガティブな声も寄せられましたが、どう受け止めましたか?

 私は過去にAVに出演していたことを隠そうと思っていないし、隠せるものだとも思っていません。だから「販売停止にしたところで、一体何が変わるの?」という気持ちもありますが、そもそもそんなに大したことをしたって意識もなくて。「過去を隠す気はないって言いながら隠してるじゃん」とか、「言ってることとやってることが違う」というアンチの言葉は、私のことを思って言っているものではないと思うので、言わせておけばいい、ぐらいに受け止めています。

――『夜が明けたら 蒼井そら』の電子書籍「完全版」では、アンチからの心無いコメントについても触れていました。実際の蒼井さんは、有名になっていくにつれ、アンチの声がきついなと感じることはありましたか?

 18年前にデビューしたした時からずっと、誹謗中傷は必ず寄せられる前提で活動していました。でも18年経っても慣れないし、この先も慣れることはないと思っているので、以前はエゴサーチしてましたが、今はコメントも含めて見ないようにしています。

――プロレスラーの木村花さんが、SNSで誹謗中傷コメントが多数寄せられたことで、命を落としたことも問題になりました。

 応援してくれる人の方が断然多いはずなのに、なぜか100ある応援の言葉よりも、アンチからの1の言葉のほうが刺さるんですよね。たくさんの「頑張ってください」「応援してます」の声よりも、たった1人からの誹謗中傷を引きずってしまうのは、応援してくれる人たちに申し訳ないと思うんです。だからスルー力を鍛えて、読まないようにしてきました。AV女優に限らない、どんな仕事をしている人であっても、アンチは必ずいますよね? だから視界に入れないことが、一番いいと思います。

 私は中国の微博(ウェイボー)にも2000万人近いフォロワーがいて、いいコメントも誹謗中傷もたくさん来てると思いますが、難しい中国語はわからないので(笑)。でもある時、私への誹謗中傷コメントに対して「あなたたちは名前を伏せて投稿してるけど、蒼井さんは全部さらけだしている。あなたたちと蒼井さんに、どれほどの差があるかわかりますか? そんなひどい言葉を投げかけていることを、自分自身で考えないとダメなのでは?」というコメントを、年配の女性がつけてくださったことがありました。

 自分よりずっと年上の女性が応援してくださっているのを見て、ますます私を傷つけようとするコメントに反応してはいけない、良い言葉だけを覚えておくようにしようと思いました。SNSはスルー力、本当に大事ですよね。

――2018年に結婚、2019年に双子を出産しました。この先、やってみたいことはありますか?

 「蒼井そら」を辞めるつもりはもちろんないですし、今の自分がやれることってなんだろう? って改めて考えてもわからないけれど、新しいことに挑戦したい気持ちは常にあります。中国はもちろんですが、これからもずっと海外と関わっていきたいと思ってますし、日本でも忘れられないように、頑張っていかなきゃって気持ちでいます。