1994年、ルワンダでは、80万人から100万人が内戦で殺されたといわれる。犠牲になったのは、人命だけではなかった。ユニセフ職員の榮谷(さかえだに)明子さん(42)がラジオを通して試みたのは、文化の再生だった。その取り組みを、『希望、きこえる? ルワンダのラジオに子どもの歌が流れた日』(汐文社)にまとめた。
2013年の終わりに赴任。かつて紛争で親を亡くした子どもたちが、昔話や童謡を聞くことなく育ち、親になっていた。伝承が途絶えた現状を知った榮谷さんは「小さな子どもたちにとって、歌はとっても大切。寂しいお友達によりそう優しさや、リズムに乗って踊る楽しさを学べるので。なんとかしなければ」と考えた。
子どもたちの心を育てる場所を作ろうと決意し、動物たちのドラマや童謡を紹介するラジオ番組「ITETERO」をスタートさせた。ルワンダ語で「子どもをはぐくむ場」という意味だ。
病院で居合わせた父子の携帯電話から番組の曲が聞こえた時、心がほぐれていくのを感じたという。本書からは、国連職員の仕事の醍醐(だいご)味が伝わってくる。「日本の中高生に『夢に向かって道を切り開くワクワク感』を伝えたいと思いました」(興野優平)=朝日新聞2020年8月29日掲載