1. HOME
  2. トピック
  3. 大名墓から格づけ・思想を解き明かす 考古学的手法を用いた研究書「近世大名墓の考古学」

大名墓から格づけ・思想を解き明かす 考古学的手法を用いた研究書「近世大名墓の考古学」

薩摩藩島津家の墓所がある鹿児島市の福昌寺跡

 日本各地に今も残る大名家の墓所は、被葬者の格づけや思想までも反映していると言われる。その実相を考古学的手法で解き明かそうと試みた研究書『近世大名墓の考古学』(勉誠出版)が出版された。

 「近世大名葬制の思惟(しゆい)と実践」「東アジア文化圏の思想受容と祭祀(さいし)」の2部構成。執筆者は各地の自治体などで実際に墓所を発掘している文化財担当者や大学の研究者たちだ。

 総論にあたる「近世大名家墓所調査の意義」を執筆した坂詰秀一さんの研究によれば、大名墓の中でも、下部構造にあたる石室などには「大名家の思惟」や「藩主の信教」などが強く反映されているという。

 本書では、儒教と神道に深い素養があり、自らの葬儀にそれを反映させた会津藩初代藩主の保科正之や、儒教に傾倒した岡山藩池田家、灯籠(とうろう)から藩内の家格が見て取れる薩摩藩島津家の例などが報告されている。

 また、編者の松原典明さんは、中国の僧・隠元の渡来後に日本で盛んとなる黄檗宗(おうばくしゅう)の影響によって、帰依した柳川藩立花家などの墓が独特の塔型式へと変化することなどを指摘する。

 近世大名墓の研究は、発掘調査例の増加などを踏まえて、この20年で急速に深まり、2019年には高知県立高知城歴史博物館で企画展「大名墓をめぐる世界 そのすべて」も開かれた。そこで強調されていたことの一つが、残された史料の研究と、現存する墓石や発掘調査の調査成果などとの協業だ。今回の出版は、18年刊行の『近世大名葬制の基礎的研究』(雄山閣)などとあわせ、この分野の研究の進展と現状を示すものと言えるだろう。(編集委員・宮代栄一)=朝日新聞2020年9月9日掲載