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ナムーラミチヨさんの絵本「だっだぁー」 赤ちゃんとの会話を楽しんじゃおう!

文:日下淳子、写真:本人提供(ブルーノ・ムナーリが大好きなナムーラミチヨさん。ご自身の名前もムナーリとかけている)

共感し合うことが大事

――まだうまく話せない赤ちゃんと、どんなふうにコミュニケーションしたらいいんだろう? そんなふうに思い悩む親御さんにぜひ一度手に取ってもらいたいのが、ナムーラミチヨさんの絵本『だっだぁー』(主婦の友社)。豊かな赤ちゃんの表情とともに「だっだぁー だらっ だらぁーー」「ぎーじ いーじ」と喃語(なんご)とも擬音語とも思える言葉が並んでいく。これを大人が読むの? と躊躇するのはもったいない。このオノマトペ(擬音語)こそが、赤ちゃんとの楽しいコミュニケーションの始まりになる。

 この絵本は、読み聞かせというよりも、コミュニケーションのツールとして使ってくれたらと思っています。オノマトペは意味があるようでない。「だっだぁー」と読み聞かせたら、子どもが音や表情に呼応して、笑ったり、真似して返してくれる。それでいいんです。

 もし子どもが、「だっだぁー」ではなく、「あっがー」と言ったとしても、それを受け取って、同じように真似してあげたりしながら、喃語の時期の赤ちゃんとの受け応えを楽しんでほしいです。絵本だから、最初から最後まで本の通りに読んであげないといけないとか、そうしないと赤ちゃんの脳に効果がない、なんていうものではないんですよ。

『だっだぁー』(主婦の友社)より

 私の家族は息子の時も孫の時代になっても、みんながオノマトペで赤ちゃんと語り合う家族でした。赤ちゃんの喃語の時期って本当に楽しいですよ! 「あうあうばあ」「じゅえいじゅえいち!」と言い始めると、ちゃんと伝わるんですよ。だって、そこに一緒にいるんですもん。それで、大人が「そうだよね、本当だ!」と返事をして会話が広がるんです。電車やバスに乗っているときも、同じようにどんどん語り合うんです。そういうコミュニケーション遊びは、大人も自分の感性を磨くいいチャンス。赤ちゃんのおかげですよね。

 そもそも、私の息子は要求のハッキリした赤ちゃんで、「食べたい」「飲みたい」と言いたいときは、両手でテーブルをバンバンたたきながら「マンマ!」「ブーブー!」と大きな声で叫ぶんです。私が、その強さに従っているばかりじゃおもしろくないと思ったのが、いい流れと感動につながったと思います。

 あるとき、寝かしつけしながら、「モーー」とか「ワンワン」といった鳴き真似をしてみたんです。赤ちゃんって、能や狂言役者のようなはっきりした音声を聞くと泣き止むというのを聞いたことがあって、耳に届きやすくておもしろい言葉を言ってみたらどうかなって。そうしたら、驚くほどの反応があって。そういう遊びを繰り返していたら、1歳前の息子が、喃語と片言を交えて、数日前に遊んだことを話し始めたんです。これには感動しました。いつかこの感動を、世の中の赤ちゃんとその家族に役立てたいと心の底で思いました。それが絵本『だっだぁー』なんです。

ナムーラミチヨさんによる『だっだぁー』の読み聞かせ

愛を膨らませ、産婆の気持ちで

――『だっだぁー』に出てくる表情豊かな顔はすべて、カラー粘土の手作り。右ページには、かわいい赤ちゃんの顔、左ページには、ナムーラさんが「赤ちゃんの守り神」と呼んでいるカラフルな顔が登場する。子どもたちが大好きな「むちゅむちゅむちゅ」と話すページでは、赤ちゃんと守り神が、嬉しそうに口をとがらせている。それがなんとも幸せそうだ。

 『だっだぁー』で最も大事にしたのは、赤ちゃんのお顔の形(表情)。立体感のあるものは、温かい感じがして好きなんです。カラー粘土で、私の中の愛を膨らませながら、手指を使って「かわいい、かわいい」と呟きながら、ガーゼで拭き取ったりして作り上げるときは、まるでお産婆さんになったような気持ちでした。そうやって、一つひとつ赤ちゃんへの敬いの心を込めることができた、特別な作品絵本なんです。

『だっだぁー』(主婦の友社)より

 50年近く前に、はじめて見た海外の赤ちゃん絵本(ファーストブック)というものが、立体物がモチーフで、とてもアーティスティックな写真絵本だったことが、私がカラー粘土の立体作品でこの絵本を作る強い動機づけになっています。ファーストブックはどれもとてもアート的で、インスパイヤされました。たとえば1個のオレンジの写真が左ページにどーんとあって、その輪切り写真が右ページに、ストーリーもない力強い作品でした。

 私は現代アートの分野に身を置いていたので、いつかこういうアートな絵本を作りたいと20代の頃に思っていました。実際に作ったのは孫が生まれる前ぐらいのタイミングですが、いろんな家族が喜んでくれて、その後フランス語にも翻訳されました。フランスでも『dadaaa』。その後、同様に粘土で作ったハグ絵本の『だっころりん』もフランスで出版されて、嬉しかったですね。世界各国の親子にコミュニケーションを楽しんでほしいです。

『だっだぁー』『だっころりん』のフランス語版(出版社:l'école des loisirs)

 絵本は子どもに「教える」とか「はぐくむ」ために読むと考えずに、子どもとの会話を楽しむために便利に使ってくれたらと思います。こうやって、子どもとコミュニケーションを取ることで、私自身がどれだけはぐくまれたかわかりません。育児って、本当に大変。ご飯を作ってもぐっちゃぐちゃにされちゃったり、そういう毎日ですもの。赤ちゃんの世話に追われるだけでなく、一緒に遊ぶことを考えないと、やってらんないでしょ?(笑) 子どもが他の人と違ってていいところも、コミュニケーションの中から見つけていってくれたらいいなって思っています。