鈴木翼さんの絵本「なんでやねん」シリーズ 絵本はコミュニケーションツール、子どもと一緒に笑える時間を

――保育園などで子どもたちと一緒に遊べる「あそび歌」を数多く制作している鈴木翼さん。あそび歌「なんでやねん体操」をもとにした絵本『なんでやねん』(世界文化社)は、子どもと一緒に笑ったり、突っ込んだりしながら、体を動かせる楽しい作品だ。関西のツッコミ文化を体操にできないかという発想から始まった「なんでやねん体操」が生まれた背景には、鈴木さん自身の保育士としての経験や、子育て中にいかにスマホやテレビを使わずに子どもと楽しむかを考えてきたことがあるという。
あそび歌って、子どもたちとの距離をすごく縮めてくれるものです。保育士をしていた時代、最初はちゃんと保育しよう、子どもたちをまとめようとしても、僕はうまくいかなくて。でも、手遊びを通じてみんなで笑った後だと、「つばさ先生っておもしろい」と、子どもたちが見てくれるようになったんです。もっと進化させてより楽しくこの子たちと過ごすためにはどうしたらいいんだろうと考えていくうちに、体操や歌が出来上がりました。
「なんでやねん体操」は、大阪での保育士向け連続講座で、参加者全員で「なんでやねん」と体操をかけ合わせたものを作ることになったのが始まり。突っ込むときに手を伸ばす、これって体操みたいと歌って、「なんでやねん」と突っ込むあそび歌(体操)です。
僕、「なんでやねん」という言葉に憧れがあったんですよ。学生時代、関西の友達がいつも「なんでやねん」とか「おかしいやろ」と突っ込んできて、これを言えばみんなにワッとウケる言葉があるっていいなと思っていました。「なんでやねん体操」を作って子どもたちとやってみたら、この言葉に馴染みがない子でも、踊ったり歌ったり楽しそうだったんです。
保育園では「体を動かしましょう」という時間が設けられることがあって、そのとき、ただ体操するのではなくて、笑いながらできる体操をつくりたいと思っていました。とにかく子どもたちにいつも笑ってほしい、それが一番の思いでしたね。
――あそび歌として作った「なんでやねん体操」は2013年に絵本化され、子どもとの読み合いが盛り上がる楽しい絵本として大人気となった。
絵本化しようという話は、師匠で絵本作家の中川ひろたかさんからの提案でした。歌では「あさ おきたら ちょんまげ はえてた なんでやねん なんでやねん」の「ちょんまげ はえてた」というところで、子どもがワッと笑うんです。次の「パジャマを ぬいだら ふんどししてた」も同様に「ふんどししてた」で笑いが起こります。その後の「なんでやねん」のツッコミの動きに対して「これって体操みたい」「突っ込みしながら体操しましょう」と、歌では続くのですが、絵本ではちょっとはずしたもうひとネタがあったほうがいいということで、「はみがきしてたら おひげがはえてきた」が加わっています。もうちょっと続いてから落とす、というような技術は、中川さんから教わりました。やっぱり絵本って、ちゃんと納得する流れが必要なんですよね。遊びや子どもの笑いのツボだけに特化して頼ってはダメ。あそび歌はリアルタイムに子どもの想像に任せられる部分があるので、その違いが難しいなと思いました。
僕が読むときは、まずツッコミの練習をみんなでするんですよ。「右手を出して。せーの、なんでやねん! もう1回行くよ。せーの、なんでやねん!」って。「隣の人が嫌な顔したらやめてください」なんて冗談を言いながら。その後「あさ おきたら ちょんまげ はえてた」と僕が言うと、一緒に「なんでやねん!」と突っ込んでくれます。あとは間を大切にしていますね。
子どもって本当に正直だから、おもしろくないとどこかへ行ってしまいます。園などにコンサートで呼ばれていくと、会場ごとに漂っている子どもの空気みたいなものがあって、だんだん子どものツボが見えてきたらそこをぐっと引っ張るんです。そうすると、ドンって子どもが笑うんですよね。抑揚のつけ方で「ほら、いくよいくよ」っていう空気を作っています。
でも遊びが入っているので、こう読めばいいなんて正解はなくて、あんまり肩ひじ張らずに子どもに合わせてほしいかなと思います。普通に読んでも子どもが笑わないときは、どうやったら興味を持つかなって、子どもに合わせていつもチューニングするんですよ。子どもから教えてもらおうっていう姿勢があると楽しくなりますね。
――『なんでやねん』は遊びながら読める絵本として、子育て中の親や保育園の先生の間で人気を博し、シリーズ化。『おふろでなんでやねん』『うみでなんでやねん』『ゆうえんちでなんでやねん』『まほうでなんでやねん』と、シチュエーションを変えながら、アクセル全開にしたツッコミを展開する。昨年12月にはシリーズ5作品がアニメ化、ネットフリックスで配信されるほどの人気ぶりだ。
「なんでやねん」のシリーズは、園の先生たちが気に入ってくれて、口コミで広げてくださっている感じがありますね。各作品のテーマは、海や遊園地は子どもが好きな場所、お風呂や魔法は僕が大好きなものと、好きなものをお裾分けしたい気持ちで選びました。クリスマスも好きなので、次の新作はクリスマスがテーマです。クリスマスと言っても12月じゃない「びっクリスマス」なんですよ。「ツリーの飾り付けしましょう」ってお母さんが持ってきたのが七夕飾りだったり、トナカイが浮き輪をしていたり、1年中読めるような設定にしました。内容についてはこれもかなり試行錯誤して、おせちの案だったものを急遽、流しそうめんに変えたりしています。
――鈴木さんは子どもの頃、絵本作家になりたいという夢があった。幼少期はもっと絵本を読んでくれと懇願し、1日20冊も読んでもらっていた。そのときの楽しかった記憶がいまも色濃く残っている。絵本はコミュニケーションの手助けをしてくれるものとして、このデジタル時代の中、より大切にしたいものだと感じているという。
保育士時代、延長保育の時間に即興でお話を作って聞かせていました。最初は短い時間でしたが、だんだん長くなって、歌も即興で作りながらお話の世界で遊んでいました。その経験がいま絵本づくりにも役立っているのかもしれません。僕自身が子育て中、いかにスマホを出さないで子どもとの時間を過ごせるかを自分に課していたこともあるんです。ハンカチでどれだけ遊べるか、鉛筆1本だけでどうやってこの子を楽しませるか。いま目の前にいる子を喜ばせるためにやっていることのほうが、絶対にデジタルに勝ると思います。
僕は、絵本ってコミュニケーションツールだと思っているんですよ。先生たちはこの絵本を通して、子どもたちと一緒に遊んでくれます。いまはスマホが手軽だし、電車や病院で子どもにスマホを見せている人も多いと思いますが、絵本を通して子育てをすると、かけがえのない時間を子どもが返してくれると思っているんです。子どものかわいさに気づいたり、子どもの言葉にはっとしたりする、子どもを通した豊かな時間がそこにあります。それは子育て中に辛いことがあっても、思わず忘れさせてくれる幸せな瞬間だと感じています。