大阪出身で昭和を代表する名優、森繁久彌(もりしげひさや)(1913~2009)の著作を集めた『森繁久彌コレクション』(藤原書店)の完結を記念して、しのぶ集いが13日、東京・早稲田で開かれた。喜劇俳優の大村崑(こん)さんら旧友たちが、詩にエッセーに筆をふるった才人の思い出を語り合った。
森繁は多忙を極めるなか、「幕あいにも書いた」(次男の建〈たつる〉さん)という健筆ぶりで、残した著作は二十数冊。コレクションでは、「自伝」「芸談」など全5巻に再編集した。
この日は大村さんや俳優の小野武彦さん、歌手の加藤登紀子さん、作曲家の岩代太郎さんら、親しかった十数人が集まった。
かつて森繁が作詞、作曲した「知床旅情」を歌いヒットした加藤さんは、第1巻の「自伝」を読んだ感想を話して、「満州で戦争をどうくぐって、戦後どうあがいたか、ほとんどの方がご存じない。本当の森繁さんを知ってもらうために、(本の中で)生き続けていただかないと」。
「自伝」では、日本放送協会のアナウンサーとして赴任した旧満州で敗戦を迎え、隣人が自宅に押し入ったソ連兵に射殺されるなど〈強姦(ごうかん)、強奪、殺戮(さつりく)の惨事〉をかろうじて生き延び、本土に引き揚げた経験を書き残した。〈あの生ぐさい終戦時の、いつわりない姿を、暗い道、黒い時間が、少しでも書きとどめ得たらと、それが願いでありました〉とつづっている。
〈役者はその人物の持つ魅力が第一で、それを役者の華とでもいうのだろう〉
大村さんは、その言葉を裏付けるようなエピソードを披露。晩年、知人の葬儀で顔を合わせるたびに、「あなたどなた?」「崑ちゃんですよ!」「崑ちゃん? あんた死んだって聞いたぜ」。「7回も同じ掛け合いをしました」と大村さん。「毎回、周りで(楽しそうに)聞いている人たちがいたからですね」(上原佳久)=朝日新聞2020年11月18日掲載