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「史上最大の革命」書評 現実主義のもと民衆の権利拡大

評者: 藤原辰史 / 朝⽇新聞掲載:2021年01月16日
史上最大の革命 1918年11月、ヴァイマル民主政の幕開け 著者:ローベルト・ゲルヴァルト 出版社:みすず書房 ジャンル:歴史・地理・民俗

ISBN: 9784622089520
発売⽇: 2020/11/18
サイズ: 20cm/367,76p

議会制民主主義や女性参政権を実現し、ナチ政権の到来で崩壊したヴァイマル共和国。当時の人々の証言や資料をもとに、革命前夜と共和国成立、国家と社会の構造転換を一望。ヴァイマル…

史上最大の革命 1918年11月、ヴァイマル民主政の幕開け [著]ローベルト・ゲルヴァルト

 一九一八年十一月に勃興したドイツ革命に関する総合的歴史叙述である。
 一般にドイツ革命はフランス革命ほどのインパクトがなく、ロシア革命の意義を評価する立場からすれば、社会主義革命が挫折したので「裏切られた革命」と映る。ところが本書は、一見地味なドイツ革命こそが「史上最大の革命」(当時のジャーナリストのT・ヴォルフの言葉)だと評価する。それはなぜか。
 第一に、ほぼ無血革命だったこと。皇帝とその家族は殺されず、民衆の死者も仏露の革命より圧倒的に少なく、意外にあっさりと君主制が崩壊した。
 第二に、革命を巡る環境が厳しかったにもかかわらず革命を成就したこと。極左も極右も暴力も辞さず急激な変化を求め民衆の支持を得られなかったが、妥協点を探る大統領エーベルトらの現実主義が機能した。
 第三に、革命のダイナミズム。帝政は家父長的で非民主的だったが、革命後女性参政権が認められ、女性や性的マイノリティーの権利も広がった。検閲の廃止や労働者の権利の大幅な拡大なども実現した。
 私自身は著者の見立てに完全に納得させられたわけではないけれども、封建的性格の色濃い未熟な民主主義という特質で論じられがちだったドイツ現代史を、米大統領ウィルソンとの関係、アフリカでの戦争と停戦、植民地の喪失、中東欧との抜き差しならない関係など同時代的要素から組み立て直す手つきは鮮やかだ。
 さらに左派の画家K・コルヴィッツ、保守的な歴史家F・マイネッケ、義勇軍に参加した、のちのアウシュヴィッツ収容所所長R・ヘースなど登場人物が多彩で、証言が多面的である。
 ドイツ革命を呪ったナチズムが勃興する過程が描かれていないのは、当然意図的だ。革命の精神が継承されるあり得たかもしれない歴史を読者に想像させる。民主主義の根幹が揺らぐ今、ドイツ革命の知見が役立つことは間違いない。
    ◇
Robert Gerwarth 1976年生まれ。ユニバーシティ・カレッジ・ダブリン現代史教授。著書に『敗北者たち』。

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