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「LIFE SCIENCE」書評 知識を整理し考える力で納得へ

評者: 黒沢大陸 / 朝⽇新聞掲載:2021年02月13日
LIFE SCIENCE 長生きせざるをえない時代の生命科学講義 著者:吉森 保 出版社:日経BP ジャンル:生命科学・生物学

ISBN: 9784822288662
発売⽇: 2020/12/18
サイズ: 19cm/351p

LIFE SCIENCE(ライフサイエンス) 長生きせざるをえない時代の生命科学講義 [著]吉森保

 抗体、免疫、変異……。 いまや日常会話でも使われる専門用語。我々の生命科学の知識は1年前よりも格段に増えた。頭に散在する知識の本質的な意味が、先端の研究者の説明でつながっていく。
 細胞の働き、病気との闘い、著者の専門であるオートファジー、生命科学の基本から最先端までがわかりやすく解説される。体内で巧みに姿を隠す赤痢菌は「ステルス戦闘機」。細胞の世界はシビアで「敵がきたとき『戦え』『戦うな』『自殺しろ』」と命じられて日々戦っている。
 最終章にある「寿命を延ばす5つの方法」が気になっても、最初の「科学的思考を身につける」から読み進めてほしい。難しく考えずとも、「日常で『あれっ』と思ったことを、考える姿勢を持っておく」、これだけでも科学的な思考は身につきやすくなる。科学の基本の相関関係と因果関係。相関関係だけなのか、因果関係が検証されたのかも考えるクセをつけることで身につく。研究の意味や限界を知ると同時に、ネットや世間にあふれるニセ科学やフェイク、陰謀論への対抗に役立つはずだ。
 テンポ良い説明に知識を得る楽しさを感じながらも、ときに立ち止まって考えさせられる。生物は老化も死も進化の過程で「わざわざそれを選んだ可能性が高い」。優劣の判断は容易ではなく、「現代の先進国の感覚で劣っているように見えるもの」の排除は生命科学的に好ましくないかもしれない。役立ちそうな研究ばかり支援する「選択と集中」政策への著者の危惧とも通じそうだ。
 気になる長寿の秘訣(ひけつ)。示される健康法は、一部を切り取れば怪しい広告に利用されそうだが、本書で身につけた知識と「考える力」で曲解は避けられ、「腹八分で運動に尽きる」への納得感も深まる。読後、空腹時には体の中で起きていることを想像して、きっと、自分の細胞をいとおしく感じられる。
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よしもり・たもつ 生命科学者、大阪大教授(細胞生物学)。医学博士。国立遺伝学研究所教授などを経て現職。