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「アーミッシュの老いと終焉」書評 自発的な集団 社会問題への鍵

評者: 柄谷行人 / 朝⽇新聞掲載:2021年02月27日
アーミッシュの老いと終焉 著者:堤 純子 出版社:未知谷 ジャンル:社会・時事

ISBN: 9784896426304
発売⽇:
サイズ: 20cm/267p

自分らしく老い、自分らしい最期を迎えるには? アーミッシュの人々とその生活を長年調査してきた著者が、皆がそれぞれの場所で、それぞれの役割を果たすアーミッシュの高齢者たちの…

アーミッシュの老いと終焉 [著]堤純子

 米国には、各地で迫害された宗教的な集団が移住してきた例が少なくない。アーミッシュはその一つである。ローマ・カトリック教会では、幼児洗礼が慣例であったが、洗礼は自分の意志で受けるべきだと主張したのが再洗礼派である。ドイツやスイスで、アマンという人物によって興された一派がアーミッシュであり、教会と国家から激しく迫害されて、米国に移住した。
 通常、そのような宗教的移民は近代の産業社会に適合して変わっていく。アーミッシュが有名になったのは、彼らがこの二百年の間、ほとんど変わらなかったからだ。彼らは今も、当時のままの服装に身を包み、農業を生業とするばかりか、電気を使わず、移動は馬車だ。兵役にはつかなかった。税は払うが、社会保障制度には加入せず、「クモの巣のように張りめぐらされた」家族、コミュニティのネットワークで、助け合って暮らしている。
 この風変わりな人たちは、「刑事ジョン・ブック 目撃者」(ハリソン・フォード主演)などの映画でも注目を浴びてきたが、近年では、居住地が人気の観光地となっており、私も案内されたことがある。珍奇な見世物(みせもの)というより、古き良きアメリカを偲(しの)ばせるとして、称賛の的となっているのだ。
 アーミッシュは、厳格ではあるが、常にメンバーの自由意志を重んじる。たとえば、洗礼を受けるかどうかは完全に各自の選択に委ねられている。子供には、八年間の通学期間のあと、無期限の猶予期間が用意される。多くはこの間に一般社会の生活を経験して、その上で洗礼について決める。しかし、九割近くが洗礼を受け、また、生涯アーミッシュとして生きる。その結果、彼らの人口は二〇年ごとに倍増している。著者は、現代社会の諸問題、とりわけ高齢者の孤立について考える鍵を、アーミッシュの生活に見いだしている。それは「アソシエーショニズム」と呼ばれてきたものにつながる在り方である。
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つつみ・じゅんこ 1957年生まれ。小学校英語講師や塾講師など。著書に『アーミッシュ』など。