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神崎宣武さん「日本人の原風景 風土と信心とたつきの道」インタビュー 失われた文化、伝えねば

神崎宣武さん=本人提供

 森の恵みをうける暮らし、四季折々の行事、人生の節目の儀礼――。高度経済成長を境に急速に失われた日本人の生活文化をまとめた。後押ししたのは世代としての義務感だ。「私たちが『古きこと』といちどは捨てさったことのなかに、不断の原則のようなものがあったのではあるまいか」と読者に語りかける。

 岡山県の農村に生まれ、武蔵野美術大在学中に民俗学者の宮本常一に師事し、フィールドワークに付き添った。「お前のやるべき民俗学は落ち穂拾い」「とにかく歩くことじゃ」と教えられ、在野の立場で多くの著作をものにしてきた。郷里の宇佐八幡神社など3社の宮司でもあり、岡山と東京を年間20回以上往復する生活も半世紀近くになる。「伝統的なしきたりをつなぐのに必要な絶対人数が各地で欠けてきている。私の地元でも『原風景』が遠のくのを実感しています」

 宮本が敬遠し、自分に託されたテーマとして取り組んできたのが性の問題だ。非定住のマイノリティーを扱った最終章で、戦後に廃絶した名古屋の遊郭を追った経緯が記される。四国で居酒屋を営む女性にようやくたどりつくが、客として酒を飲んだだけで何も聞かずに辞してしまう。「私は、すでに別の世界で生きているその人をそっとしておきたい、と心からそう思った」とつづる筆に人柄がにじむ。

 調査研究をめぐる環境は厳しい。1993年に設立され、所長を務める「旅の文化研究所」は来月解散する。でも、悲観してばかりではない。「若い外国人の研究者に期待しているんです。広い視野をもち、日本の文化を素直におもしろがる。明治初期の日本についてエドワード・モースやイザベラ・バードらが優れた著作を残したことを考えると、可能性が大きいように思います」(文・吉川一樹 写真は本人提供)=朝日新聞2021年2月27日掲載