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偏愛がすぎて紹介できなかった本たち 朝日新聞本好き記者が懺悔の気持ちで語り尽くす「とっておきすぎ読書会」後編

『彗星菓子手製所の和菓子』(筑摩書房)

>「とっておきすぎ読書会」前編はこちら

山崎 2巡目にいきますか。『彗星菓子手製所の和菓子』という、これが2020年9月に出てるんですけど。いってみれば、和菓子の写真集に文章が添えてある本です。この彗星菓子手製所というのが何かというと、プロフィールによれば、岡山県生まれの和菓子作家だと。

野波(岡山出身) また妙なのが出てきたね、岡山から(笑)

滝沢 岡山、最近熱いですよね。「空気階段」の水川かたまりさんも。

山崎 歌手の藤井風さんも。で、表紙を見たときに何か見覚えがあって。何だろうと思っていたら、これだったんです。多和田葉子さんの『地球にちりばめられて』と『星に仄めかされて』(いずれも講談社)。

野波 ああ、なるほど。そこでつながるのか。

山崎 表紙に、彗星菓子手製所の和菓子が採用されていたわけです。

滝沢 これ何だろうなと思いましたもんね。

山崎 そう! 何だろうと思っていた、このよくわからない謎の結晶は、琥珀糖っていう和菓子なんだそうですよ。どんなお菓子なのかというのは巻末に解説があって、寒天と水と甜菜糖(てんさいとう)を煮詰めてリキュールを入れて固めたもの。〈食感が儚くて美味しい〉とある。食べたことないんですけど、たぶん口に入れたら溶けてなくなってしまうような、そういう儚さがあるんでしょう。それこそ、まさに幻想小説ではないか。

野波 出たね、岡山の幻想の系譜!

滝沢 なんですかそれ(笑)

野波 まずは内田百閒がいて、その「娘たち」として小川洋子さんと山尾悠子さんがいるという見立てなんだけど。琥珀糖っていうのは和菓子として一般的なものなんですか。

山崎 琥珀糖そのものはあります。でも、かたちはこの人のオリジナルでしょうし、あと写真を撮っている大沼ショージさんという人の撮り方がまた、いいんですよ。暗所で光っているかのように、まさに彗星のように撮るという。ここに載っている春夏秋冬の和菓子ひとつひとつが、ぜんぶうつくしいんです。

滝沢 顕微鏡写真みたいですよね。

山崎 なかには文学作品からインスパイアされた和菓子もあって、梶井基次郎の檸檬爆弾とかを大福で作ったりしてるんですよね。それをもってしても、小説好きに手に取ってもらいたい感じがする、和菓子の本なんです。たぶん、この人も本がお好きなんでしょうね、文章もよくて。たとえば「螢」っていうページがあって、暗いところにガラスのコップがあって、青い冷葛湯の真ん中に、ホタルの光みたいな黄色がぽっと灯っている。これに添えられた文章が〈初夏のひとときの幻想。光を蓄えて今にも飛び立つ、その瞬間が好きだ〉。

野波 なんなんだ(笑)

山崎 いいんですよ、これが。和菓子の紹介でもなんでもないんだけど、ああ、わかりますと。言葉選びがとてもすてきで。しかし、これもまた取り上げにくいじゃないですか。

滝沢 取り上げにくいですね。

野波 そもそも、どうやって見つけたの?

山崎 書店を歩いていて、たまたま表紙を見て、なんだろうと思って。それも普段は行かない料理本のコーナーでした。

滝沢 よく気づきましたね。

野波 本屋には行くもんだね、やっぱり。こんなのアマゾンでは見つけられない。

山崎 書店で多和田さんの本と一緒に並んでたら、買う人いそうですよね。

野波 いるいる。気の利いた書店員がいれば、さくっと面出ししているかも。

山崎 そして多和田さんのサーガ、これもまた、たいへんにすばらしい。新たな代表作といっても過言ではないです。さっき(前編で)出てきた『ベルリンうわの空』ともつながるのが、異邦人たちの物語というところ。なので、ぜひ一緒にどうぞ、という感じもする。たとえ文庫が出たとしても単行本で持っていたいと思わされる装丁も魅力で、その表紙を飾っているのが、この彗星菓子手製所の和菓子だということです。

東京903会『熊彫図鑑』(プレコグ・スタヂオ)

野波 2巡目はフェチ的世界かもしれないね。

滝沢 じゃあ、これ行きますか。

山崎 刊行はいつなんですか?

滝沢 2019年8月です。姉が旅行にいった北海道で見つけて買ったらしく、「おもしろかったから貸してあげる」と家に置いていったんですよ。ただ、そのときは木彫りの熊に強い関心がなかったものですから(笑)

山崎 僕も和菓子に関心があったわけじゃないから一緒ですね。

滝沢 パラパラとみて、「へえ~」みたいな感じで、そのままにしてたんですよ。で、「そろそろ返してくれ」と言われて、貧乏性で慌てて読んでみたら、これがとにかく面白いんですよ。何がすごいって、まず木彫りの熊の歴史。北海道のお土産物の定番ですよね。

山崎 有名ですよね。

滝沢 なんで北海道に木彫りの熊が出てきたのかということが書いてあるんですよ。木彫りの熊発祥の地とされる八雲町は、明治維新の後、尾張徳川家の旧藩士が北海道に入植して出来た町。で、もともとじゃがいもの栽培が中心だったんですが、大正時代に不況で苦しんでいるときに、尾張徳川家第19代当主の徳川義親という人が、スイスに旅行に行って、木彫りの熊を見つける。それで、農閑期にこれを土産物として作って売れば良いんじゃないかということで持ち帰るわけですね。

山崎 スイスなんだ。

滝沢 そうなんですよ。そのときの熊も紹介されてるんですよ。これです。

野波 ふふふ。

山崎 めちゃくちゃかわいい。つぶらな瞳。

野波 ようするに、テディベアの木彫版みたいなことなのかな。それが、どうしてああなったんだろう。

山崎 あの鮭をくわえているやつですよね。

滝沢 鮭は戦後の北海道観光ブームのときに広まったようですが、その頃には八雲の木彫りは衰退してしまっていて、実は結構謎が多いみたいです。八雲の少し後に旭川でも木彫りの熊が作られるようになっていたりもして。古い熊はあまり鮭はくわえてないんですよね。でも、見たことあるような熊が載ってて、こういうところから鮭までいったんだろうと。

山崎 そうそう。こういうの。

滝沢 このポーズは、「這い熊」というらしいんですが。

山崎 ははは。

滝沢 独特な用語にもいちいちしびれるんですよね。で、土産物として始まって、農民が熊を掘り出すわけですが、だんだん芸術家になってしまうんです。代表的な作家が紹介されてるんですが、そのうちの一人が柴崎重行さん。もともと農業をやりながら、第1回の熊彫講習会に参加したそうです。それで、みんなで組合で売っていたんですが、段々「芸術を追求する場所じゃない」というところまで行ってしまい、外に出るわけですね。そして、最終的にどんな熊を作っていたかというと、「ハツリ彫り」という独特なスタイルです。普通、僕らが想像するような木彫りの熊は、毛の流れを掘ったいかにも熊らしい「毛彫り」ですね。それが「面彫り」という面で構成したモダンな作品が出てくる。この時点でかなり抽象化されてます。さらに、ここから自然な断面を生かした「ハツリ彫り」まで行くわけですね。で、〈一見して熊とは思えないほど抽象化が進み〉というところまでいってしまっているんです。関係者のインタビューも入っていて、いかにして木彫りの熊が芸術の域に達して、彼らが芸術家になったかがわかる。

山崎 最初は民芸品だったわけですもんね。

滝沢 みんなが芸術方向にいくわけではないんですけどね。いろんな熊が載っていて、作家性がすごくあるんですよ。この丸みがあってかわいい熊たち、見てください。この人はなんと76歳になってから木彫を始めたらしいんですよ。

山崎 え~?

滝沢 〈76歳のとき、孫の頼みから日光東照宮の「眠り猫」を彫ったのをきっかけに木彫を開始〉。そこから90歳まで熊を彫り続ける。

山崎 木彫りの熊の図鑑というのは、これが初めてなんですかね?

滝沢 そんなにないと思いますよ。(※読書会後に調べたら、山里稔『北海道 木彫り熊の考察』という図鑑が!奥が深い)

野波 これ書いた人、「マツコの知らない世界」に出てそうだよね。マツコ・デラックスの隣に。

滝沢 著者の「東京903会」というのは、この本を作った「プレコグ・スタヂオ」のなかに事務局があって、これが初めて刊行した書籍だそうです。本を作る版元というわけではないようで、他には湯飲みとか、そういうグッズが売られています。

野波 ISBNはついてるの?

滝沢 ついてなくて、基本は直販です。だから、新聞の書籍紹介では紹介のしようがない。

山崎 カテゴリーとしては、リトルプレスに入るでしょうね。

滝沢 プレコグ・スタヂオのオンラインストアでは品切れでしたが、代官山の蔦屋など一部の店舗にはまだ在庫があるようです。それから、八雲では表紙の色が違う特装版が手に入る。木彫りの熊は風景の片隅に埋もれてしまっているものですけど、ここにこんなに奥行きがあること自体がすごく面白い。似たような読後感のものとしては、『あいたくてききたくて旅にでる』(小野和子著、PUMPQUAKES)を持ってきました。民話を収集している人が書いた本で、普通の人の日常にあったことが、段々「昔話」になっていく。その過程、途中みたいなことが書かれています。

山崎 「プレ民俗学」みたいなことですね。

滝沢 そうですね。埋もれているものを掘り出してきて味わう、その滋味深さ、面白さ。

山崎 図鑑には一定のファンがいますけど、これは「謎図鑑」としてもいいですよね。

野波 好書好日でも図鑑の連載やってるけど(「図鑑の中の小宇宙」)、ISBNがついてないものまではとりあげにくいもんね。

山崎 これも装丁がとてもいい。

滝沢 いいんですよ。糊ではなくて、糸かがり綴じ。凝ってますよね。

山崎 カバーはなくて、2本スピンがついている。判型もちょっと変わってますよね。

野波 図鑑やカタログには、結構こういう判型はあるよ。

山崎 ただ、これ高価なんですよね。6000円超えるんですよ。

滝沢 そうそう(笑)。好事家に向けた、ね。

山崎 今後の本のあり方、かたちとしては、こういう方向もあるのかなと思いますね。

滝沢 一般に流通している本も含めて、少部数、高価格化していますよね。流通の問題で取次が刊行点数や部数を絞るようにしているという事情もあるでしょうし、海外と比べて本の値段が安すぎるという主張もあります。いずれにしても、ネットがあって情報のあり方が多様化している中で、「なぜ本でなきゃいけないのか」という問いを乗り越えたものだけが本になっていく時代に突入していくのかなという予感がありますよね。

野波 前から、スーベニール(記念、思い出)としてのパッケージ商品はあるね。音楽が先行してるけども。

滝沢 リットーミュージックとか、パンフレットとかTシャツでがんばってますよね。

野波 その流れでいえば、ジンは定期的なものも一回こっきりのものも、おもしろいものがいっぱいあるけど、紹介しようと思うと、どうしようもないよね。

山崎 どうしようもないですね。

野波 一方で、セレクト本屋みたいなところには絶対あるわけじゃない。ジンのコーナー。

山崎 むしろそういう本屋が増えています。

野波 みんな目にしてるんだけど、あそこへの言及ってのがほぼない状態。

山崎 そろそろ「リトルプレスがゆく」みたいなコーナーがあってもおかしくない。

野波 ただ、それをマスメディアでやるのか、というのはつらいものがあるんだよね。

山崎 たしかに取り合わせは悪いですよね。

野波 「好書好日」でジン紹介をやろうかと思ったんだけど。おもしろい出版物としては、まったく無視できないところまで来ているんですよね。

『熊彫図鑑』の詳細は「プレコグ・スタヂオ」ウェブサイトへ。

ジョン・ディクスン・カー『四つの凶器』(和爾桃子訳、創元推理文庫)

山崎 ここからどうつなげましょうか。

野波 まあ、フェチつながりってことで、大好きな本格ミステリーものを。持ってきたのは、ジョン・ディクスン・カーの探偵「アンリ・バンコラン」シリーズの新訳。全5冊がちょっと前に完結したんですよ。……まず、ジョン・ディクスン・カーについて説明しないとまずいでしょうか?

山崎 お願いします(笑)

野波 たぶん海外よりも日本でのほうがファンの多いミステリー作家としてエラリー・クイーンと並ぶ両巨頭です。ホームズとかクリスティーは全世界で人気があるけども、いまだにカーだのクイーンだの言ってるのって、たぶん日本の本格ミステリー界隈の人たちばっかりなのかなと。

山崎 ははは(笑)

野波 カーには、3人のシリーズ探偵がいます。まず、ジョン・ディクスン・カー名義で書いているフェル博士。カーター・ディクスンという別名で書いているヘンリー・メリヴェール卿。で、その二人の前に、アンリ・バンコランという、いけすかねえフランス探偵がいるんですよ。そのシリーズの長編が全部で5冊あるんです。今回の新訳は和爾桃子さんという方。旧訳は誰だったかちょっと覚えてないんですが(※複数の方々でした)、中学高校とミステリーにはまってて、創元推理文庫の『髑髏城』、これはバンコランものの最高傑作とも言われているのですが、ものすごく読みにくかった。訳が古いってのもあったのもしれないんだけど、当時高校生だった僕は、ヨーロッパの町並みについて何も知らなかった。時代背景や社会背景もわからなくて、いちいちひっかかるんですね。おまけに、字も小さくて。ちゃんと読み切れたのかどうかすら覚えていない。ようやく新訳が出るというので、読み直してみました。で、ああ、これはみんなはまるよね、というのもわかった。自分自身の知識が増えたのもあるけど、訳の精度があがったのが大きいのかな。この前、読書面の「著者に会いたい」に出ていた翻訳家の田口俊樹さんや、クイーンの新訳を手がけている越前敏弥さんも言ってるけど、昔は訳す人もよくわからなかった固有名詞なんかが、インターネットで簡単にわかるようになった。旧訳と新訳を比べて文章がうまいかどうかはおいといても、非常に読みやすくなった。ただ、作品そのものは、ミステリーとしては古くさい感じはしました。1930年代の作品なんで、トリックとか、いまやったら袋だたきに遭うような稚拙なトリックなんですよ。

山崎&滝沢 (爆笑)

野波 で、なんでそんなのをここに持ってきたかというと、いわゆる「新訳」は取り上げられないということの例としてです。

山崎 2012年から19年にかけて出てるんですね。

野波 新訳ものって、なんで取り上げにくいのか。僕は新訳も新刊だと思うんだけど、新訳もので取り上げられるのって、村上春樹が『ロング・グッドバイ』を訳しました、みたいなものだけなんじゃないかな。こういう風にアップデートされて手に取りやすくなったものを紹介しないのは何なのか。かといって、自分もずっと買ってたんだけど、読んでいたかというと、去年の緊急事態宣言が出たときにまとめて読んだんですよ。「取り上げないのはおかしい」とかいっている僕が、読むのは後回しにしている。ミステリー古典の新訳って、ここ10年すごいんだよね。カーだけじゃなく、クイーンも、クリスティーも。そういう傾向をまとめることは出来るけど、「ジョン・ディクスン・カーのアンリ・バンコランシリーズ5冊完結!」みたいなことは、なかなか。

山崎 一方で、出続けているということは、とりあえず買っている人がいるからですよね。まあ、読んでるかどうかは別として。

野波 そうなんだよ。僕みたいに。結局「積ん読」になるんだけど。だって、中身は知ってるし、いまさら読み直さないよね。クイーンのドルリー・レーン4部作(『Xの悲劇』『Yの悲劇』『Zの悲劇』『レーン最後の事件』)とか、死ぬほど読んだから。

滝沢 死ぬほど(笑)。

野波 まあちょっと読まないよね。

山崎 でも出たら買いますよね。

野波 買うけどね。お布施としてね。

滝沢 お布施として。なるほど。

山崎 でも、どうしても初訳優先になりますよね。

野波 いま80年代、90年代生まれの作家が続々と出てきているなか、この後のティーンエイジャーが読むにはいいですよね。

山崎 文化的な蓄積としてすごく大切です。

滝沢 新訳によって古典を棚卸しする意義は、光文社が新訳をやり出してからまた光が当たりましたよね。去年は、講談社学術文庫がマルクス『ルイ・ボナパルトのブリュメール18日』とか、アダム・スミス『国富論』とかレヴィナス『全体性と無限』とか、まとめて新訳を出したりして。一部は重版もかかってました。

山崎 ありましたね。モンテスキュー『ペルシア人の手紙』とか。

野波 光文社古典新訳文庫については昔、編集長の駒井稔さんへの取材で聞いた話だけど、カント『永遠平和のために』で「悟性」を使わなかったとか、工夫をこらしてるんだよね。

滝沢 カントでは必ず出てきて、多くの人が「ん?」となる、つまずく言葉ですからね。

野波 読みやすくしつつ古典をアップデートするというのは、買い支えたり紹介したりしないと先細っていくんじゃないかと。とはいえ、「『髑髏城』すばらしいので読んでください」とは言えないところがつらいんだけど(笑)。ただ、一方で付け加えておきたいのが、カーはよく「怪奇風味」と紹介されるんですよ。で、その怪奇風味が一番出ているのが、3人の探偵のなかでもこのシリーズなわけね。

滝沢 バンコランですね。

野波 怪奇とミステリーでいうと、怪奇味の方が圧倒的に大きいわけ。当時、ホームズからの流れで、欧米の謎解きミステリーが隆盛を迎えるわけだけど、カーは当初、「おれは本格ミステリー作家だ!」なんて全然思ってなくて、むしろ怪奇風味のものが書きたかったんだよ。江戸川乱歩とかもそうじゃん。

山崎 ていうか、横溝正史ですよね。

野波 横溝はカーの影響が強いよね。乱歩も謎解きよりも耽美だったり、怪奇の方がいまだに読まれてるでしょう。

山崎 怪奇ミステリーの系譜なんですね。

野波 「D坂の殺人事件」とか完全な謎解き小説でおもしろいけど、むしろ「屋根裏の散歩者」とか「人間椅子」とか、もうなんだかわからないものの方がみんな好き。怪奇風味みたいなものはここから出ていて、さっきいったような「こんなの謎でもなんでもないじゃん」というのは、別に書いてる本人も「すげえトリックだろう」とは思っていなかったと思う。

山崎 「屋根裏の散歩者」なんて、まさにトリックはどうでもいいわけで。

滝沢 イスに人が入ってるとか、そういう発想の気持ち悪さみたいなところが面白いですよね。

山崎 そこに熱気と勢いがありますよね。それで読まされる。

野波 バンコランシリーズに関しては、怪奇小説として読んだ方がいいのかもしれない。

滝沢 『四つの凶器』だけは、今回ちょっと読んで来たんですよ。僕はミステリーを普段そんなに読まないので、ある意味で新作なわけですが、面白かったですね。時代の空気感みたいなものが伝わってきて、映画をみてるような。

野波 そうそう。古い外国映画みたいだよね。

滝沢 トリックにはさほど関心がないので、込み入った話は飛ばして雰囲気だけ味わったりして。

山崎 さっきの話でいうと、乱歩、横溝という日本ミステリー大家の先達としてカーがいるから、日本ではわりと特権的なんでしょうね。

野波 読んだら読んだで、ミステリーとしては首をかしげても、当時の雰囲気を味わえればそれはおもしろい。

滝沢 当時のロンドン人にパリはこう見えるのか、みたいなね。「空が広い」とか言ってるんですよ。

山崎 ちなみにバンコランって、魔夜峰央さんの「パタリロ」に同名のキャラがいますが、元ネタはここからですか?

野波 もちろん。魔夜さんはものすごいミステリー好きだから。

山崎 そういうフックから入るのもいいかもしれないですね。

野波 いろんなところでカーの影響が出ているんでしょうね。読み直したらいろんな発見がありました、怪奇小説好きの方はぜひ読んでみて、という感じかな。

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