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フルポン村上の俳句修行 書籍化を記念して「俳句フェス」を実施しました

文:加藤千絵

 春の嵐に見舞われ、“オンラインイベント日和”となった3月28日、「好書好日 俳句フェス」は2部構成でスタートしました。第1部はオンラインサイン会。事前に好書好日のサイトから本とオリジナル作句ノートのセットを予約購入した人を対象に、村上さんがくじを引いて、当選者にサインをしていきます。コロナ禍で直接交流することはできなかったものの、「村上さんに俳号を付けてほしい」など熱いメッセージ(!?)がたくさん寄せられました。

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 第2部は連載にちなんで、スペシャル句会を公開配信しました。参加してくれたのは村上さんのほか、なんと今回が初めての句会体験という渋谷麗さん、これまで連載にも出ていただいた彼方ひらくさん、諸星千綾さん、後藤麻衣子さん、大槻税悦さん、梅田実代さん、はじめましての露草うづらさん、里山子さん、安溶二さん、くま鶉さん、橙さん、香織さん、村蛙さん、平井しょう子さん、森永青葉さん、犬星星人さん、千野千佳さん、ひろえさん(順不同)。スペシャルゲストとして、俳人で結社「蒼海」主宰の堀本裕樹さんをお招きしました。

 みなさんには事前に旅行会社HIS主催の「世界一周オンライン体験ツアー」に参加してもらい、吟行句2句を提出してもらっていました。

>投句一覧はこちら

インド・ガンジス川(HIS提供)

インドの雑踏で出会ったのは

 当日は参加者に特選1句を含む3句ずつ、村上さん、堀本さんには5句ずつ選句し、発表してもらいました(特選、並選とも1点に換算)。この日、最高の8点(うち4人が特選)を獲得したのは、千野千佳さんの「またおなじ風船売とすれ違ふ」でした。

堀本:作者がインドの雑踏の中でうろうろしてるんじゃないか、っていう感じを思わせましたね。知らない土地だと地理に詳しくないから、ついぐるぐるとしてしまって「またこの風船売りとすれ違ったな」みたいになりそうですね。そこに目を付けたところがすごくよくて。オンライン吟行なのに自分がそこに入り込んでるようなリアリティを感じて、うまい句だなと思いました。「またおなじ」っていう出だしも斬新だなと思いますね。村上さんはどうですか?

村上:先に言ってしまうと、僕はこれ、特選でいただいてるんです。ここで白々しく句評して、あとでもう一回言うのが恥ずかしかったので、今言いますけども(笑)。

一同:(拍手)

村上:これ、音もいいし、聞いただけでなごやかになるというか。何でもないことを「ちょっといいな」と思える瞬間が含まれていて、すごくいいなと思いましたね。風船っていうものの目立ち方が、すごく生きてるんじゃないかなと思います。

堀本:僕もそんなふうに感じます。風船がゆらゆら揺れながら風船売りが持っている、という見せ方もいいですね。

千野(作者):ありがとうございます。インドの市場に風船売りがいて、日本の風船に比べてなんとなく長細いなと思って、それで印象に残りました。またちょっと違うところを歩いたときに、「さっきの風船売りがいた」みたいな発見があって、それを句にしたいなと思って。

村上:「またいる感」ってありますもんね。「またアイツいるじゃん」っていう、そのおかしさが非常に出てて、僕は好きでした。

未知のスープのお味は?

 後藤麻衣子さんの「炎天の未知のスープに10ルピー」も同じく、8点(うち2人が特選)でした。

村上:これもおもしろいなーと。確かに海外のスープって、未知感すごいじゃないですか。具材とかが溶け込んでるんで。

堀本:ほんと、ちょっと怖いですよね(笑)。

村上:その未知感と、「10ルピー」と言ってるので通貨はルピーを使っている国なんだろうというのが分かったときに、「安いし、飲んでみるか」っていう冒険心みたいなものもあって。そこに「炎天」という、じっとりとした季語を使うことで「本当に大丈夫か」という、危険とも言えない危うさみたいなものがちゃんとこの句の中にあったので、僕はすごく好きで取らせていただきました。

堀本:村上さんがもう言っちゃったから言いますけど、僕はこの句、特選なんですよ。

一同:(拍手)

村上:ちょうど僕と堀本さんが入れ替わって(笑)。

堀本:「炎天」って夏の季語なんだけども、やっぱりインドって、日本人にとっては象徴的に「夏」「暑い」みたいな感じがありますよね。これがもし日本の季節に合わせた春の季語だったら、僕は特選にしなかったなと思うんですよ。「春空の」とか「春の空」とかにしちゃうと、ちょっとやわらかすぎる。でも「炎天の」とすることでギラギラっとしたインドの感じが出て、それが「未知のスープ」にすごく響いてきますね。煮えたぎってる感じが炎天に響くんですよね。それに、何が入ってるか分からない未知、どんな味か分からない未知もある。いろんな未知が詰まってるんだけれども、10ルピーで買えちゃうっていう。インドやアジアを旅したときに感じる怖さと同時に好奇心みたいなものもあって、そこがよく表現されていたなと思いますね。作者に聞いてみましょうか。

後藤(作者):ありがとうございます、うれしいです。いまお二人が言ってくださったように、海外旅行の醍醐味ってそういうところというか、何かよく分からないものに、妥当かどうかも分からない値段を払って何かを食べる、みたいなことってすごくおもしろいですよね。今回のオンライン吟行が終わったときに、旅をした感じが想像以上に残っていて。行ってないけど行った、みたいな感じがすごくあって、何かそのリアルな感じが詠めたらいいなと思いました。インドが一番、その場にいるイメージが強くて、スープみたいなカレーがあるという話もされていたので作った句でした。

堀本:(8点の)2句とも、自分が雑踏に迷い込んだような身体的な、本当に体験したような迫り方をしてるな、って思ったんですよね。そんな感じしません?

村上:現場感みたいなものがあって。今回インドの句が多いと思うんですけど、インドの映像に一番人が多かったんですよね。登場する人物が多くて、やっぱり人がいる場所に動きがあって、そこの目の付けどころですよね。この2句は本当に旅行句を見たような、「インドってそういう場所なんだ、話聞いてみたい」っていう感じがしますよね。

得点句を紹介します

 この日は特定の句に選が集中する結果に。続く6点を集めたのは、またも千野千佳さんの「春寒のモスクに靴を揃へけり」、4点句は後藤麻衣子さんの「底のチャイざらりと舐める孕猫」で、村上さんからは「(点を集めすぎの2人は)反省してください!」というせりふが飛び出し、笑いに包まれます。その村上さん、そして堀本さんの句にはなかなか選が入らないという結果でした・・・・・・。

 点の入った句は、以下の通りです。

【4点句】
底のチャイざらりと舐める孕猫 後藤麻衣子
沐浴(スナーン)の泣く児をくるむ春ショール 露草うづら

【3点句】
アカシアにつがふ麒麟や朝霞 くま鶉
縄張りがモスクの野犬冴返る 諸星千綾
クラクション途切れぬ街の朝曇 梅田実代

【2点句】
春光や聖水担ぐ洗濯夫 橙
チャイの盃捨つる路上の朝曇 梅田実代
開襟をくつろぐる僧をる聖河 くま鶉
コアラ抱き南薫の木となりにけり 彼方ひらく
退屈なコアラに扇風機は三台 里山子
ガンガーに遺灰も汗も花びらも 彼方ひらく

【1点句】
ガンジスにとられしランプ水温む 諸星千綾
インパラの角しなやかに若草野 平井しょう子
彼岸西風チャイの素焼の杯割れば 平井しょう子
自転車はみずいろ春時雨のハワイ 安溶二
永き日のなほ天敵の居らぬ視野 森永青葉
プルメリアの吹き寄する浜春遅々と 露草うづら
ソーダ水不思議の国のウォンバット 渋谷麗
サバンナの海市のごとく首都の影 香織
春昼やシミットを買う警察官 村上健志
チャイと似る恒河の畔かげろへり 村蛙
印度より届いた祈り春の風 ひろえ
円蓋の春光を天使と思ふ 犬星星人
春愁やチャイの器の破壊音 大槻税悦

句会を終えて、堀本さんのコメント

 この句会自体はすごく楽しくて、バラエティーに富んだ句が出ましたね。でも、映像を見て俳句を作るというのがなかなかの難問で、日本と気候が違う異国の映像でどんな季語を使ったらいいのか、みんなたぶん悩んで立ち止まったと思いますが、がんばって作られたなと思って拝見しました。ここまで作れたら、たいしたもんだなと思います。

【堀本さんの提出句】
大筆のごときキリンののどけき尾
てのひらに春愁のせてアーミンを

句会を終えて、村上さんのコメント

 句会に参加していくとたくさんの人に出会えて、今日も何人か今までご一緒した方がいらっしゃったんですが、こういう機会にまた会えるのも楽しいなと思いました。だんだんやっていくと「あれ、今回違うぞ」とか相手の投げる球が分かってきて、それがおもしろいなと思っていて。句会に参加していただいた方々のおかげで本や連載が成り立っております。今回もみなさま、ありがとうございました。

【村上さんの提出句】
シンクロすきりんの尾と尾朝うらら
春昼やシミットを買う警察官

【俳句修行はまだまだ続きます!】