喜劇評論の金字塔とされる、作家・小林信彦さんの『日本の喜劇人』が刊行から半世紀を経て、『決定版 日本の喜劇人』(新潮社)として新装発売された。榎本健一(エノケン)、森繁久彌、渥美清、萩本欽一ら、コメディアンの個性や芸風を縦横に論じ、後の喜劇界に大きな影響を与えた評論。原著が出た1972年当時、他の芸能文化より一段低く見られていたお笑い文化について、東京の下町生まれの小林さんが「見て確かめてきた」喜劇人を活写した貴重な記録でもある。
久しぶりに記者会見の場に臨んだ小林さんは「はじめに書いた時は、みな現役だったんですよ。でも、つきあっていた人たちが次々と亡くなってしまって……。時間がたてばたつほど、若い世代にはわからなくなっていくから、一言二言加えておきたかった」と話す。
『決定版』は、特に思い入れの深い植木等、藤山寛美、伊東四朗について掘り下げた『日本の喜劇人2』との合本版。細かい加筆修正を施したうえ、タモリ、ビートたけし、明石家さんまの「BIG3」、新型コロナで亡くなった志村けん、そして俳優の大泉洋について最終章でくわしく言及している。
「最近の話題にも触れないとと思って。大泉さんは、北海道が舞台のハードボイルドなのか喜劇なのかわからない映画(「探偵はBARにいる」)は3本見たし、テレビもCMも出てるけど、まだこうってことはなかなかいえない。渥美さんだってそうです。彼は40歳すぎて売れたんだから」と、渥美が「男はつらいよ」について「初めて意味があると思えた仕事」と語っていたエピソードを披露した。
現在88歳の小林さんは4年前に脳梗塞(こうそく)を患い、闘病生活を著書『生還』で発表。それでも「週刊文春」誌の長寿コラム「本音を申せば」では、映画を楽しみ、新聞やテレビのニュースに一喜一憂する日々をつづっている。
「『喜劇人』は笑いの文化に囲まれて育った私が、彼らの姿を残したいと思って書いた本。ただ、このテーマはここまでです」(野波健祐)=朝日新聞2021年5月26日掲載