現役の看護師でもある小説家、前川ほまれさんの新刊『セゾン・サンカンシオン』(ポプラ社)は、依存症の女性たちとその家族を題材にした連作短編集。社会の片隅で苦しみ、悩む人々の姿を生々しく描きながら、その底に温かい視線を感じさせる物語だ。
アルコール依存症で入院を繰り返す母親にうんざりしている千明は民間の治療施設「セゾン・サンカンシオン」の見学に行く。依存症に苦しむ女性たちが共同生活する場で、千明は生活指導員を務める塩塚から施設の説明を受ける。「依存症を一度患うと死ぬまで直らない。でもね、依存症は回復ができる病気なの」。塩塚もまた、かつて依存症患者だった……。
執筆のきっかけは医療刑務所を舞台にした前作『シークレット・ペイン』だった。「収容者に依存症患者が多く、悲しい現実に心を動かされたのですが、知識不足もあって書ききれなかった。そのわだかまりを形にしたかった」
ギャンブル、窃盗、薬物など施設を訪れる患者たちの依存の種類は様々だ。共通しているのは、家族を巻き込み、世間の無理解な視線にさらされる恐ろしさ。回復途中で「スリップ」と呼ばれる一時的な再発を繰り返す患者たちの姿は、決してひとごととは思えない人間の弱さを映し出す。
重く、救いを見いだしにくいテーマだが、前川さんはほのかな希望を施設の名にこめた。
「三寒四温は昔から好きな言葉です。少しずつ回復を目指す依存症治療に似ているかなと。これまで自分が知らない人々のことを知りたくて小説を書いてきて、今回、孤独な病と言われる依存症の患者がコロナ禍で人と距離を保つように言われて、追い込まれている現状も知った。書き終えられてほっとしています」=朝日新聞2021年5月29日掲載