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「偉い人ほどすぐ逃げる」書評 「今更」でもしつこく言い続ける

評者: トミヤマユキコ / 朝⽇新聞掲載:2021年07月10日
偉い人ほどすぐ逃げる 著者:武田 砂鉄 出版社:文藝春秋 ジャンル:社会・時事

ISBN: 9784163913759
発売⽇: 2021/05/27
サイズ: 19cm/261p

偉い人が噓をついて真っ先に逃げ出し、「それどころではない」のに五輪中止が即断されず、言葉の劣化はますます加速。…これでいいのか? 武田砂鉄が「現代の危うさ」に警鐘を鳴らす…

「偉い人ほどすぐ逃げる」 [著]武田砂鉄

 元々は文芸誌に「時事殺し」というタイトルで連載されたもので、2016年から20年までの時事問題について書かれている。書名を見た瞬間、何人かの顔が思い浮かんだ。政治の世界に、あるいは他の界隈(かいわい)にこういう人はわんさかいる。もはや見慣れた光景だ。
 読むほどに確信するのは偉い人ほど言葉を軽視するということ。質問をはぐらかし、公文書や議事録を改竄(かいざん)し、実態の伴わないスローガンをぶち上げる。あらゆる場所、レベルで言葉が軽んじられている。しかもこうした状況に異議申し立てをすると、どこからともなく冷笑する人が現れる。
 「どんな悪事にも、いつまでやってんの、という声が必ず向かう。向かう先が、悪事を働いた権力者ではなく、なぜか、追及する側なのだ。万引きが多発するスーパーマーケットで、万引きGメンに『いつまでやってんの』と言う客がいるだろうか。無賃乗車が横行する駅の改札で、警戒する駅員に『いつまでやってんの』と言う乗客がいるだろうか」……世の中にはしつこく言い続けるべきことがある。そんな「当たり前」を再度確認しないといけないくらい、私たちはしつこくするのがヘタになっているということなのだろう。
 その意味で本書は、武田砂鉄の書きぶりを横目に見ながら、読者自身がしつこさを取り戻し、しつこさ上手になるための「しつこさ復権の書」と言える。少なくとも、武田ひとりを怒る係にして「よくぞ言ってくれた!」とスッキリして終わるための本ではない。
 ごちゃごちゃ言わずいい子でいれば得するのはいつだって偉い人である。プレミアムフライデーとはなんだったのか、東京オリンピックは「復興五輪」と言えるのか、素手でトイレを磨けばいい国が作れるのか。本書にはさまざまなフックが仕掛けてある。どこからでもいい、心惹(ひ)かれるトピックについて、じっくり考えてみて欲しい。「今更だ」なんて思わなくていいから。
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たけだ・さてつ 1982年生まれ。フリーライター。著書に『コンプレックス文化論』『わかりやすさの罪』など。