1. HOME
  2. 認知症をきっかけに見えてくる家族のかたち 大変だけど、ほのぼのする「ねぼけノート」

認知症をきっかけに見えてくる家族のかたち 大変だけど、ほのぼのする「ねぼけノート」

 この漫画で描かれているのは、埼玉県に住む70代の父母と、実家から1時間半ほどのところで仕事をしながら一人暮らしをしている娘の日常です。なかなか物が捨てられない母親、実家で「結婚、結婚」と言われるのが嫌な娘。どこにでもいそうな家族に、変化をもたらしているのがレビー小体型認知症と診断された父の存在です。

 ここで、皆さんに「レビー小体型って?」と関心をもってもらえたならば、認知症に特化したWebサイト「なかまぁる」の編集長をしている私としてはありがたく思います。なぜなら、認知症といえばアルツハイマー型が有名ですが、そのほかにも原因となる脳の病気は70種類以上あるのです。そのことが、まだまだ知られておらず、適切なケアにつながっていないことがあると、日々、感じてきたからです。

 原因となる病気によって、認知症の症状や対応は異なってきます。レビー小体型では、パーキンソン症状のために歩きにくくなることや幻視が特徴とされています。この漫画では、「すり足ぎみで ちまちまと歩く」といった父の様子や、父が診断を受ける前に「車がこっちに向かって走ってくることが見えていた」ことが、それとなく描かれていて、レビー小体型の症状の一部を自然と理解することができます。

 また、父は、血液中のナトリウム濃度が低くなることで意識混濁を起こし、入院するのですが、これは、認知症の方に限らず、高齢者が注意すべきことの一つです。父がリハビリを受けるために転院する「介護老人保健施設」という施設は、介護保険法に基づき、病院と自宅の橋渡し的な役割を担う施設で、知っていて損はありません。そのほかにも、お墓を買ったり、補聴器の店に行ったりと、高齢の親と過ごす際に必要な情報が満載です。

 それでも、決して介護や医療一色になっていないのが、著者のあさとひわさんの見事な日常感覚です。印象深いのは、無邪気な言動を繰り返しながら、時折、自分のことを「どう見えますか?」と気にする父。何度も話題になる実家の片付けや、父母それぞれが娘に向かって「グチ・悪口は家庭内で」と毅然と主張するシーンです。1コマ1コマに、親子の関係や40余年の夫婦としての歩みを感じさせられます。認知症になるということは、その人、その家族の一部であって、全部にはならいし、そうならないようしていくことが大切なのだと改めて気づかされます。

 作家の井上ひさしさんは創作の心得を「むずかしいことをやさしく、やさしいことをふかく、ふかいことをおもしろく」と述べていました。あさとひわさんは、深刻な状況をほのぼのと、ほのぼのとした状況を深く、深いことをおもしろく描いています。その幅の広さがあるからこそ、介護体験漫画としても読めるし、医療漫画としても読めます。迷った末に、我が家の本棚では、この本は「家族」のコーナーに置くことにしました。