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「中国ファクターの政治社会学」書評 観光は「贈り物」で戦略的ツール

評者: 阿古智子 / 朝⽇新聞掲載:2021年08月21日
中国ファクターの政治社会学 台湾への影響力の浸透 著者:川上 桃子 出版社:白水社 ジャンル:社会・文化

ISBN: 9784560098523
発売⽇: 2021/06/18
サイズ: 19cm/274,9p

「中国ファクターの政治社会学」 [編]川上桃子、呉介民

 圧倒的な経済規模を誇り、軍事力を増大させる中国から、民主主義国の政治・経済や社会活動が影響を受ける可能性は高まっている。しかし日本では、依然、経済だけを切り離して中国との関係を構築しようと考える人が少なくない。ウイグルや香港の問題もしかりである。
 一方、「祖国統一」の目標を抱える中国との間で複雑で緊密な結びつきを持つ台湾は「中国ファクター」を常に鋭くとらえてきた。
 本書は、安全保障、政治、経済、アイデンティティ、社会、マスメディアにおける中国の影響の台湾社会への浸透をていねいに分析している。
 交流と経済協力を促進する「贈り物」として提示される観光は、外交政策の戦略的ツールでもある。中国からの台湾ツアーを参与観察した研究者は、「台湾を中国の一部としてみせる演出と語り」に注目する。
 「封建時代の迷信」とされていた媽祖(まそ)(航海や漁業の守護神)は、「台湾海峡の和平の女神」と呼ばれるようになり、政治家の社会資本や地域経済振興のための文化資本の蓄積に貢献する存在になった。
 中国の少数民族自治区での労働移民や開発インフラ整備もそうだが、一見、互恵的で自発的に見える活動で徐々に一方が他方に依存し、抜け出せなくなる構造が出来上がることもある。
 中国ファクターは他のファクターとの関わりにおいて分析することも重要だ。教科書をめぐる論争では、日本統治期の台湾に対する独占や搾取など日本ファクターにも焦点が当たる。台湾の報道の自由は、中国ファクターのインパクトを受ける前から米国ファクターによる制約を受けていた。
 中国ファクターと言うけれど、要は自らがどうありたいのかを真剣に考え、自らの周辺との関わり方を精査する必要があるということだ。民主主義と自由について、活発に討論を重ねてきた台湾から日本が学ぶことは多い。
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かわかみ・ももこ 1968年生まれ。アジア経済研究所地域研究センター長▽ご・かいみん 1962年生まれ。台湾の研究者。