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「ロボット学者、植物に学ぶ」書評 根の可塑性に着目し治療応用へ

評者: 須藤靖 / 朝⽇新聞掲載:2021年08月28日
ロボット学者、植物に学ぶ 自然に秘められた未来のテクノロジー 著者:バルバラ・マッツォライ 出版社:白揚社 ジャンル:自然科学・科学史

ISBN: 9784826902298
発売⽇: 2021/07/07
サイズ: 20cm/233p

「ロボット学者、植物に学ぶ」 [著]バルバラ・マッツォライ

 地球上の生物は過去40億年近くの時間をかけ、膨大な試行錯誤を繰り返すことで、高度な進化を遂げてきた。それらと比べれば、人間の設計する機械がまだ洗練されていないとしても驚くには当たるまい。
 だからこそ、様々な生物の優れた構造や機能を模倣する人工物開発(バイオミメティクス)は、効率的で賢い戦略である。実際、エッフェル塔は人間の大腿(だいたい)骨の構造、新幹線はカワセミのくちばしからのインスピレーションをもとに設計された例である。
 ロボットと聞くと、犬や人といった動物型を思い浮かべることだろう。本書の前半でも、安定した高速走行可能のゴキブリロボット、タコにヒントを得た八本腕の軟らかいシリコン製ロボット、水陸両用のサンショウウオロボット、あらゆるタイプの壁面をはい登るヤモリロボット、など想像するだけでも楽しい例が数多く紹介されている。
 しかし著者は、植物型ロボットにさらなる可能性を夢見る。すでに、植物の根と同じく成長によって自分自身が変形する史上初のロボット「プラントイド」を生み出した。その可塑(かそ)性を生かして、組織を傷つけず体内を動く内視鏡など医学診断と治療への応用が期待できる。つる植物からヒントを得て現在開発中の、成長してよじ登る「グロウボット」は、発掘作業や救助活動に大活躍するはずだ。
 著者は、消費促進のために製品の早死にをあらかじめ設定しているテクノロジーの「計画的陳腐化」に強い警鐘を鳴らす。エネルギーを無駄遣いせず環境から入手できる資源だけを有効に利用する設計となっている植物は、その観点からも偉大なるマエストロだ。地球の将来のためにも、環境に優しく再生可能なテクノロジーの鍵を握っているとの意見には説得力がある。
 子供の頃、オジギソウを繰り返し触って夢中で遊んでいたことをふと思い出した。なによりも植物型ロボットには癒やされそうだ。
    ◇
Barbara Mazzolai イタリア技術研究所(IIT)ディレクター。マイクロシステム工学博士、生物学者。