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西山圭太「DXの思考法 日本経済復活への最強戦略」 カイシャを丸ごと問い直す

 日本企業にとって最大の課題はデジタル・トランスフォーメーション(DX)とよく言われる。だが、進捗(しんちょく)は芳しくない。

 本書が言うようにトランスフォーメーションとは「かたちが跡形もなくすっかり変わる」ことだ。デジタル化のロジックで「企業のあり方そのもの、組織のあり方そのものを問う」ことが真のDXであり、業務の一部をデジタル化するのは「なんちゃってDX」に過ぎない。

 本書が描写する日本企業の数々のDX上の問題を、大手企業勤務の知人らに評者が読み聞かせたところ、「全部あてはまる」「うちのことを書いているみたい」と皆苦笑いしていた。

 日本の成長を支えてきた「カイシャのロジック」はもはや通用しなくなり、「戸惑っている間に、世界はそしてデジタル化ははるか先まで行ってしまった」。しかもDXが進めば企業が属する産業が丸ごと根本的に転換するインダストリアル・トランスフォーメーション(IX)もおのずと生じる。業種の縦割りは消え、「○○業界でシェア第×位の△部の部長代理である私」といった位置づけも終わる。

 この環境激変下で勝ち抜くには、「デジタル化の白地図を描く」能力が求められる。それゆえ著者はデジタル化のロジック(DXの思考法)を身につけることの重要性を熱く説いている。それを欠くと「いまグローバル競争の最前線で起こっていること」は理解できず、「日本が再生することはない」という。

 ところで、評者はDX先進地域の北欧に2年前に行った際、デジタル化で失業がいったん増えることをなぜ社会は許容できたのか訪問先で尋ねてみた。ある中央銀行幹部は転職支援の再教育制度などセーフティーネットに加え、「DXを進めなければ国が沈む」という国民の覚悟を理由に挙げた。
 そうした危機意識が改革の推進力だったのだとすれば、日本の多くのビジネス・パーソンが本書を読んでDX、IXへの覚悟を持つことは重要といえる。=朝日新聞2021年8月28日掲載

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 冨山和彦〈解説〉、文芸春秋・1650円=5刷2万1千部。4月刊。著者は元経済産業省局長。ハウツーではなくDXの普遍的な考え方を示し、「人文・思想書のファンにも読まれている」と担当編集者。