文芸担当記者になってから2年半。日々新刊を読み、著者インタビューをするなかで、どう扱っていいか、わからない本がたまに出る。
吉川トリコさんの『余命一年、男をかう』(講談社)もその一つだ。面白い。でも、著者インタビューは少々気恥ずかしい。
日々節約に執念を燃やす40歳の片倉唯(かたくらゆい)はある日、子宮頸(けい)がんを告知される。
治療をしなければ、余命は1年。がんになったら治療はしない、と決めていた彼女は、病院で目があったピンク髪のホスト、瀬名吉高(せなよしたか)に借金を申し込まれ、あっさり承諾する。
物語からはコロナ下の現代の空気感が伝わってくる。瀬名の実家は洋食店。商店街が活気を失うなか、夫婦でなんとか切り盛りしていこうとした矢先に、脳梗塞(こうそく)で父が倒れる。
唯と瀬名、2人がそれぞれに抱える生きづらさはシニカルなユーモアにくるまれていて、思わず笑い、その後にしみじみする。
瀬名は酔っぱらって若手ホストに言う。〈搾取し搾取されて、みんな加害者でみんな被害者。もうわけわかんない。それでもこのしょうもない世界になんとかしがみついて生きてんだ〉
お金から始まった2人の関係はどうなるのか。言うだけやぼというもので、気恥ずかしさの理由はこのあたりにありそうです。(興野優平)=朝日新聞2021年9月8日掲載