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青山美智子さん「月曜日の抹茶カフェ」インタビュー 人の「縁」は育てていくもの

写真:宝島社提供

プレッシャーだった続編

――デビュー作『木曜日にはココアを』(以下、『ココア』)は、「マーブル・カフェ」で働く「僕」が、毎週木曜日に来店し、いつもホットココアを注文する女性を「ココアさん」と名付け、秘かに恋心を抱くことから始まる物語でベストセラーとなりました。それから約4年、ファンにとっては待望の続編となりますが、本作の着想は「ココア」をご執筆後、すぐにわいたのですか?

 私にとって『ココア』でデビューできたのは「ラッキーの塊」みたいな感じだったので、まさか「続編を」という展開になるとは想像がつかなかったです。それに正直、続編は書けないと思っていたんですよ。『ココア』は言ってみれば素人時代の作品ですし、これでデビューできると思っていなかったので、自由にのびのびと書けていたんです。余計な力が入っていなかったというか、素人ならではのちょっとスペシャルなパワーみたいなものがあったんですよね。

 もしそういうところを読者の皆さんに受け入れられたのであれば、「私は『ココア』を超えることはできないんじゃないか」という思いがずっとあったので、続編を書くことはプレッシャーでした。なので、デビュー3年目にして担当さんから「続編を」と言われた時は「いよいよ来たか!」と思いましたが、「『ココア』を超えようと思わなくてもいいのかも」と思ったら、少し気が楽になって、書くことを決めました。

写真 田中達也(MINIATURE LIFE)

――『月曜日の抹茶カフェ』は、「マーブル・カフェ」の定休日に一度だけ開かれた「抹茶カフェ」で偶然出会った2人をはじめ、恋人と別れたばかりのシンガー・佐知、実家の祖母と折り合いが悪い紙芝居師の光都(みつ)、時代に取り残されたと感じている老舗和菓子屋の元女将・タヅら、性別も年代も様々な人たちが縁をつないでいく12編の連作短編集です。発売して1カ月が経ちますが、読者の方からはどんな反響がありましたか。

 紙芝居師の孫・光都を心配するあまり、過干渉になり言葉や態度もキツくあたる和菓子屋の元女将・タヅさんが大人気なんです。読者の方からも「うちの母、うちの祖母みたい」という感想が本当に多くて。

 でも実は、タヅさんを書くことが私の中ではちょっとしたチャレンジでした。祖母と孫の“認めてもらえない、褒めてもらえない”っていう苦しい感情や、結構嫌な感じの言い合いを作中でしているのですが、もし私の母親が読んだときに「私の娘は私に対してこんなことを思っていたのか」と思われるんじゃないかとか色々考えてしまって、書くのに抵抗があったんです。

 でも「ここでこの人を書き留めておきたい」と思った私の旬の感情だったし、親や身内に対するトラウマってとても普通というか「こう思っている人はたくさんいるんだな」ということが実感できて、発見でもあったので、書いて良かったなと思います。

写真 田中達也(MINIATURE LIFE)

――作中には「縁っていうのはさ、種みたいなもんなんだよ」「縁って、実はとても脆弱なものだと思うんです」といった「ご縁」に関するセリフが随所に出てきますね。本作に限らず、青山さんの作品は「自分では気づいていないところでつながっている縁」が通底しているテーマのように思います。

 『ココア』でデビューできたから、このテーマというか、スタイルになったんですよ。リレー形式でいろんな人に「縁」というバトンを渡していくという書き方が、自分で書いていてもとても楽しかったんです。全く同じではないですけど、2作目の『猫のお告げは樹の下で』を書くときも「連作短編にしましょうか」という話になって、自分の中のスタイルが確立したというか。短編集という形はたくさんあると思うんですけど、私の中ではどれもつながっていて、長編なんです。

失敗は良いことのスタート

――青山さんは「縁」についてどんな思いがありますか。

 本当に世の中はご縁でつながっているなということは常に感じています。だけど、縁はあるだけじゃダメなんですよね。片方だけじゃなくて、お互いが育てていかないと続かないものなんだなということは、昔からずっと思っています。

 それに、縁の不思議さはすごく感じていて、「やっぱりこことここはつながっていたのか」みたいなことって皆さんの日常にもあることだと思うので、「ただの偶然だよ」で終わらせるのではなく、そこをいちいち喜ぶと楽しいことが起こるんだなと思っています。

写真 田中達也(MINIATURE LIFE)

――でも、良縁ばかりでもないですよね。

 そうですね。世の中にステキな人はたくさんいるから、テンションが下がるような人に関わるのはすごくもったいないと思います。でも、初めは「なんか嫌だな」って思っていたけど、逆転することもあるじゃないですか。最初はすごく怖い人だなと思っていたけど、実は照れているだけだったと分かって、そこに気づいた時の喜びっていうのもすごく好きです。そういう、最初は負の感情で入って、実は……みたいな展開を、私の小説でもよく描いていると思います。

 それに、嫌だなと思っている時と好きだなと思っている時って、相手の顔が違って見えるじゃないですか。それはきっと気持ちの問題なんでしょうけど、結局その人のビジョンでしかないから、違うカメラワークで見てみるとおもしろいよっていうところも、小説でチャレンジしたい部分ですね。

――本作で青山さんが一番描きたかったことを教えてください。

 ひとつはご縁の大事さや普遍性みたいなものです。もうひとつのテーマとして「もしかしたらアンラッキーがラッキーの始まりかも」ということは、私の根底にずっとあることですね。例えば、1話に登場する美保も「ツイていない、アンラッキーが続いている」と本人は思っているけれど、それが吉平さんとの出会いにつながっているんです。

 自分がうまくいっていないと思っていることって、実は物事が良くなる、幸せになるまでのきっかけになっているんじゃないかなっていう気持ちを込めました。失敗したとか「ダメだ」ってその時は思ってもいいけど、人生ってそこでは絶対に終わらない、次につながっているんですよね。なので「失敗したからってそこで終わりじゃないよ、もしかしたらすごく良いことのスタートかもよ」という思いを今作に込めました。

写真 田中達也(MINIATURE LIFE)

抹茶はツンデレな紳士!?

――ところで以前「食いしんぼん」という連載で『ココア』の取材をさせていただいた際、「ココアは『たのもしいクマさん』みたい」と仰っていましたが、「抹茶」にキャッチフレーズをつけるとしたらどんなイメージですか?

 「たのもしいクマさん」に続く抹茶のいいキャッチコピーがないか、3日くらい考えまして(笑)、昨夜やっと出た答えが「ツンデレな紳士」!

――分かる気がします! 「ツン」で言うと抹茶のにがみの部分ですかね。あとは茶器の渋さとか。

 飲むとホッとしたり、滋養があったりするところや、甘みを引き立ててくれるような役割が「なんか紳士だな」と思うんです。こじつけですけど(笑)。初めは「貴婦人かな?」とも思ったのですが、なんとなく男の人のイメージですね。

 本作に出てくる京都の茶問屋の吉平くんは、割と抹茶のイメージですね。一見不愛想でツンデレなんだけど、実はすごく面倒見がいいところとか。

写真 田中達也(MINIATURE LIFE)

書きたいことがありすぎて

――これから描いてみたいテーマはありますか?

 書きたいことがありすぎて、一つの作品を書いている途中でも次を書きたくなっちゃうんです。書けば書くほど、アイディアがアイディアを連れてくるというか、それは作家4歳になって日々感じていることで、多分この先もネタが尽きるっていうのはないと思います。

――青山さんが作品を書き続ける原動力になっているものはなんでしょうか。

 私の小説の書き方って、映画の予告みたいにワンシーンが次々と出てくるんです。それを「行かないで! 待って~」って急いで書き留めて、また横から別のことが出てきて「この子たちをちゃんと書き留めておかないと!」という、自分で書かずにいられない衝動みたいなものが一番の原動力だと思います。きっと自分が邪なことを考えたり傲慢な気持ちになったりしたら、その予告は見えなくなってしまうと思うんですよね。これからもその予告を見たいので、「私ってすごい」なんて不遜な気持ちにならないように気をつけたいです。

――作家になるにあたって影響を受けた作品はありますか。

 中学生になってからコバルト文庫にハマりました。中でも、氷室冴子さんの『シンデレラ迷宮』(集英社)の表紙に描かれた女の子に惹かれたんですよ。「何で後ろ姿なんだろう?」って。それで自分でマネをして、初めて小説を書いてみたんです。それが中学2年生の時だったのですが「作家になろう」と決めたきっかけになりました。

 「眠れる森の美女」とかだれでも知っている物語のヒロインがたくさん出てくる夢の世界に主人公の利根ちゃんが入り込むのですが、そこではヒロインたちの「本当はこう思っていた」「本当はこういう事情があった」という物語が描かれているんです。利根ちゃんも現実世界で色々悩みがあったけど、彼女たちと触れ合うことで成長していくという内容がとてもおもしろいんです。

 今この作品を改めて考えてみると、みんながこうだと思っている固定概念や、この人はこういう人なんだっていう決めつけも本当は違うんじゃないかな?って思うんです。もっと想像を働かせて相手に接していくことが思いやりや愛情だと思うし、それが今の私の作風にもすごく影響しているなと最近気づきました。また書きたいネタが増えちゃって、止まらないんです。