※「ワテラスブックフェス」は、東京・神田淡路町の大規模複合施設「WATERRAS(ワテラス)」で「読書週間」を含む10月23日からの2週間、開催された本のイベントです。
『むかしむかしあるところに、やっぱり死体がありました。』を刊行された青柳碧人さんに、ワテラスブックフェス・プロデューサーの橋口丈さん、大学生の鈴木愛子さん(淡路エリアマネジメント学生会員)が、「昔話がいかにしてミステリーになったか」をテーマとして、新作や着想の原点などを聞きました。
昔ばなしがいかにしてミステリーになったか
橋口:第二弾のタイトルは『むかしむかしあるところに、やっぱり死体がありました。』ですが、シリーズについて簡単に教えていただけますか。
青柳:まず2019年に『むかしむかしあるところに、死体がありました。』という不穏なタイトルで1作目を出したのですが、ミステリーと昔ばなしを掛け合わせたもので、5つの独立した短編が入っています。「一寸法師」「花咲か爺さん」「つるの恩返し」「浦島太郎」「桃太郎」のおなじみの昔ばなしそれぞれが一話完結のミステリー、推理小説になっています。
『むかしむかしあるところに、死体がありました。』収録作と昔ばなし
- 「一寸法師の不在証明」(一寸法師)
- 「花咲か死者伝言」(花咲か爺さん)
- 「つるの倒叙がえし」(つるの恩返し)
- 「密室龍宮城」(浦島太郎)
- 「絶海の鬼ヶ島」(桃太郎)
おなじみの登場人物が死体となって見つかったり、探偵役を引き受けたり。話に登場する不思議なアイテム、たとえば一寸法師なら打ち出の小槌、花咲か爺さんの撒けば花が咲く灰といったアイテムがミステリーの中でどういう風に使われるか、どういった証拠が出てきて、どうした論理で謎が解明されていくのか、を楽しんでいただこうと思って書いた作品です。
第2作として出したのが、『むかしむかしあるところに、やっぱり死体がありました。』です。今回は「竹取物語」「おむすびころりん」「わらしべ長者」「猿蟹合戦」「ぶんぶく茶釜」を題材にして書きました。
『むかしむかしあるところに、やっぱり死体がありました。』収録作と昔ばなし
- 「竹取探偵物語」(かぐや姫)
- 「七回目のおむすびころりん」(おむすびころりん)
- 「わらしべ多重殺人」(わらしべ長者)
- 「真相・猿蟹合戦」(猿蟹合戦)
- 「猿六とぶんぶく交換犯罪」(ぶんぶく茶釜)
橋口:本当におもしろかったです。結構みんなが知っている話がベースになっていて、この話ってそうだよね……と読み進めると不穏な空気が漂ってきて、何か起こりそうだなという感じが、青柳さんの軽妙な文章と合わさってすごく癖になりました。
鈴木:ある程度、登場人物についてわかっているので、その中に少しずつ新しい要素が足されていって、すごく導入がわかりやすくて親しみやすいと思いました。ひとつひとつは短い話なのにしっかり裏切られたりして、わくわくして最後まで読みました。
青柳:物語が分かっている中でいきなり死体が出てきて推理が始まる。そういうところが面白いのかなと思っています。このシリーズでは、「浦島太郎」の話を一番はじめに書いたんですが、「むかしむかしあるところに浦島太郎という若者がいました」という書き出しで、昔ばなしが始まるぞ、と読んでいったらいきなり推理小説に変わっていく。その変な感じをやりたかったので、今の感想はとてもうれしいですね。
橋口:昔ばなしとの掛け合わせというアイデアはどういうふうに出てきたのでしょうか。
青柳:もともと、浦島太郎のアイデアがありました。「密室龍宮城」という話なのですが、龍宮城でしか成立しない密室トリックを実はデビュー2年目ぐらいに思いついていました。なかなか書く機会がなかったのですが、双葉社さんから、どんでん返しのあるアンソロジーに参加してくれないかと話をいただいて書くことができました。その後、話を読んだ編集者から、面白いので昔ばなしシリーズとしてやりません? と言われて、あとの4つの話はひねり出した感じなんですよ(笑)
橋口:各話のタイトルも面白いですよね。青柳さん流のタイトルの付け方があるのでしょうか。
青柳:全部ではないですがタイトルから決めることはあります。話の内容を何も決めないで。今回、『むかしむかしあるところに、やっぱり死体がありました。』のときは第1作のようにはできないと思っていました。というのは、それぞれの話の中で扱っているダイイングメッセージとかミステリーのテーマは限られていて、書くことはできますが専門的で難しくなってくるんですね。
僕はミステリーファンだけじゃなく広く一般的な、普段ミステリーを読まない方にも読んで欲しいと思って書いていますから、専門的なテーマよりは、ミステリーの型というか、こういうミステリーあるよなあ、というものを今回は書きました。
竹取物語をやりたいと思ったんですが、松田優作さんの「探偵物語」と合わせてハードボイルド的なものは面白いんじゃないかと「竹取探偵物語」というタイトルをまず考えました。「いまはむかし……」で書き始めると昔語りになってしまうから、主人公を思い切って若い男性にして、人間を嫌っているような、そういう人を主人公にしてやってみました。
橋口:書きながら自分が思っていたものとは違う方向に進む、ということもあるのでしょうか。
青柳:ありますね。ミステリーの書き方としては、いけないと自分では思っているんですけど……、がっちりはじめからプロットを決めて書く、という人が多いんですよ、ミステリーは。そう書くべきだと思うんですが、僕は違います(笑)。5千文字くらい書かないと展開が見えてこないんです。そこで犯人を決めて、そのまま突き進むこともあるし、書き直すこともあります。なので、僕の場合は余計に時間がかるんですよね(笑)。
鈴木:「竹取探偵物語」、すごく楽しみになってきました。「わらしべ多重殺人」も魅力的ですね。
誰かに話したくなるようなミステリーを書きたい
橋口:ミステリーを書く上で普段はプライベートな時間をどのように過ごしていますか。どういうふうにテーマを見つけているのでしょうか。
青柳:いろいろですね。このトリックを使いたいと思いついたときが一番テンションがあがります。ふだん、遊びの時間を大事にしているというか、うろうろしているんですね。前はよくデパートのおもちゃ売り場にいって新作で遊んだりして、その中からトリックを見つけたりしていましたね。そういった意味では、僕は24時間仕事中です。珍しいビルを見たら、ここで犯罪が起こるなら……と考えたり。
鈴木:ネタ帳みたいなものも作っているのですか。
青柳:作っています。普段思いついたことを書いています。年末にカレンダーが新しくなったら、(古いものを)はがき大に切って、仕事場にためているんですよ。思いついたことをカレンダーの裏に書いてドアに貼っているので、お札で結界を張ったみたいになっています(笑)。ちょっとした変なアイデアでも単語を書いて貼ります。「むかしむかしあるところに、死体がありました。」というタイトルもその一枚です。
鈴木:何をきっかけにミステリーの作家になろうと思いましたか。
青柳:小説を書くときにプロット、話の展開が必要だなとなったときに、最後に驚きがあったほうが良いと思って、それで必然的にミステリーに惹かれていった、という感じですかね。
橋口:読者を驚かせたい、何かを起こそうという気持ちはどの作品に関してもあるのでしょうか。
青柳:ミステリーは驚きだと僕は思うので、驚かせたいというか、そんなことする? というふうに思って読んだ人が誰かに話したくなるような感じにはしたいな、と常々考えています。でも、ミステリーだから肝の部分は人には言えないじゃないですか。それを言いたいな、と思えるような作品を書こうと心がけています。
橋口:青柳さんご自身は、こういう物語が好き、ですとか、影響を受けた作家はいらっしゃいますか。
青柳:よく聞かれるのですが、面白いと思った作品や忘れられない作品はありますが、影響を受けた、となるとちょっと違うかもしれません。忘れられない作品といいますか、ミステリーのなかで僕の原動力となっているのは、綾辻行人さんの『十角館の殺人』と森博嗣さんの『すべてがFになる』。この2作品はストーリーとトリックが忘れられない。読んだときに鳥肌が立った2大小説ですね。
影響といいますか、「密室龍宮城」を書くひとつのきっかけになったのは、小森健太朗さんが書いた『ローウェル城の密室』という作品ですね。実現不可能なトリックなんですが、こういうのもいいんだ、と思いました。ミステリーだから詳しくお話しできないんですけど(笑)。
橋口:新刊が10月に発売されました。読者にメッセージをお願いします。
青柳:まずミステリーをふだん読まない方にぜひ読んでいただきたく思います。ミステリーは人が死ぬから嫌だなとか難しいとか、敬遠されている方も多いかもしれないんですけれど、この作品は昔ばなしなので割り切れると思うんですよ。お手にとってみて、ミステリーって面白いかも、他の作品も読んでみようかな、と思っていただけたらうれしいですね。もし面白いとなりましたら、ふだん本を読まない方にも薦めてみていただきたいと思います。
鈴木:新刊が出たばかりで申し訳ないのですが、これから先もっと書いていくとしたら使いたい題材はあるのでしょうか?
青柳:昔ばなしもできればもう1回くらいは、と思っています。ただ、昔ばなしもミステリーのテーマもなくなってくるし、時刻表トリックくらいしかないんですよ(笑)。そんな中で、「舌切り雀」はやりたいです。そのひとつで1冊になることはたぶんないので、ぜひ期待しておいていただければと思いますね。
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