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都立大学・山下祐介教授「地域学入門」インタビュー 地域を知ることは、自分を知ること

東京都立大の山下祐介教授。「若い人は地域のおじいちゃん、おばあちゃんに遠慮なく話を聞くといい」と語る=東京都八王子市

都市化進み 見えにくい成り立ち

 東北学、信州学、水俣学など、地域の名前を冠した学問が各地にある。この秋『地域学入門』(ちくま新書)を出した東京都立大学の山下祐介教授(52)は、足元の地域を知ることで自分を知ろうと呼びかける。11月には、大学の公開講座で高校生向けに講義もした。なぜいま地域学なのか。

 山下教授は専門の社会学の立場から、国家と地方の関係、限界集落の問題などについて論じてきた。一方で、17年在籍した弘前大学(青森県)時代から、「津軽学」「白神学」に関わっている。

 歴史や文化を掘り下げて地元の魅力を再認識するものや、地域の負の遺産を検証し教訓を伝えようとするものなど、地域学は大学や市民講座などを拠点に全国各地に存在する。東北は、民俗学者の赤坂憲雄さんが提唱した「東北学」がきっかけとなり地域学が盛んだ。「方法はそれぞれですが、その地域に住む人が自分の地域を大事にしていこうという運動でした」

 『地域学入門』では、地域を人々がくらしを維持し継承しようとする区画や場と捉える。昔ながらの村・町のイメージだ。この50年ほどの間に、地域をめぐる状況は激変した。都市の拡大は村や町をのみ込み、市町村合併も進んだ。とりわけ都市では、地域は見えにくくなっている。

 山下教授は、研究拠点の青森県や東京都八王子市を具体例に、水、土地、エネルギーなどの来歴を探ることで、地域の成り立ちが見えてくると言う。

 「自分がどこの水を飲み、どこからのエネルギーを使って暮らしているかも知らない。東日本大震災の原発事故で東京の電気が福島から来ていることを知った人も多いでしょう。環境問題も、地球規模の視点と自分の足元の問題とがつながるべきなのに、どんな環境の中で生きているかの認識に欠けています」

 都立大がある多摩ニュータウンのような郊外住宅地が抱える課題も指摘する。

 「人から詮索(せんさく)されにくく子育てもしやすいと人気ですが、それは親にとっての話。子どもたちが社会の成り立ちを知っていくためにも、もともとの地域住民とのつながりを意図的に作るべきです。昔ながらの地域は郊外住宅地の周辺に残っているものです」

 地域の文化や歴史は従来、学校教育の場で伝えられてきた。山下教授は教員向けの研修なども手掛け、教育現場の疲弊ぶりも感じている。今回の著書は、昨年の『地域学をはじめよう』(岩波ジュニア新書)に続く入門書の出版となる。

 「地域を学ぶには、学校が地域とどう付き合うかにかかっている。先生たちにとっての手がかりになればと思っています」(西正之)=朝日新聞2021年12月22日掲載