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SEKAI NO OWARI・Fukaseさんが絵本「ブルーノ」を出版 フワフワの中に、時限爆弾式メッセージを忍ばせて

SEKAI NO OWARIのFukaseさん

2つの「真実」の物語

――ある平和な国をすさまじい嵐が襲い、助けを待つ村人タルカスと、一人でも多くの民を救うためにどうすればよいのかと葛藤する王様の2つの立場から描かれる『ブルーノ』。一方で真実だと思われた物語が、もう一方の立場からは全く違う物語になり、その「すれ違い」が悲劇を引き起こす絵本です。どのように生まれたのでしょうか。

 もともとは2017年に「Tarkus」というライブツアーの構成を考えたときに生まれたストーリーです。そのときはライブで演奏する楽曲とつながるようにストーリーを作っていきました。ツアー中に「いつか絵本にしたい」と口にしたこともあって、直後に絵を描こうとしたのですがうまく描けず、何年もそのままになっていて。

 コロナ禍で時間ができたことをきっかけに、「今が完成させるタイミングじゃないのか」と、もう一度向き合いました。絵本ではより普遍的な物語になるように、登場人物を人間以外の生物にしたり、終わり方を変えたりしました。

「ブルーノ」(福音館書店)より

――生き物の王国の物語になったのですね。

 人間だと政治的なニュアンスになりそうで。政治vs市民を描きたかった訳じゃないんです。もちろん風刺がゼロではないですけど、「事実」を誇張せずただ「2つの視点」を切り取って、コミュニケーションのすれ違いを表現したかったのです。

 自分の部屋にある、宇宙の始まりから地球上のあらゆる生物、機械まで載っている図鑑をめくったり、「どの生き物を描こうか」と実際に絵を描いたりしながら、絵本の世界観を深めていきました。大事にしたのは「物語を両方向から描いていく」ことと、「できるだけシンプルに絵本にする」こと。そのコンセプトだけを考えて進めていきました。

――村人のタルカスをキツネザル、王様をヘビにしたのはなぜですか。

 タルカスをキツネザルにしたのは、いろんな生物を描いてみたときに、キツネザルが一番可愛く描けたから。僕の中で一番愛せたからです。尻尾で感情を表現できること、モフモフでフワフワな毛のイメージもいいなと。

 王様は「表情がわかりにくい生物がいい」と思ってヘビに決めました。王様が引き連れる兵隊は「生き物じゃなくてもいいのでは」と考えたりもしたのですが、それは王様側の感情が見えないことを強調しすぎていると思ってやめて、結局カタツムリにしました。王様の表情が読みとりにくいことから生じるすれ違いなので、タルカス側から見たときに王様が冷酷に見える誇張は避けたかったんです。シンプルな事実だけでも、立場によって認識の違いが生まれるのは世の中でたくさんあることですから。

「ブルーノ」(福音館書店)より

コロナ禍の自宅で絵を描く日々

――絵をどのような順番で描いていったのですか。

 タルカス側からでもなく、王様側からでもなく、かなりランダムに描いていきました。朝起きて何となくその日に思いつくシーンだったり、ラフのスケッチを見て目に留まったシーンから描いたり。

 音楽でもそうなんですけど、世界観に深く入り込めた状態にならないと録れない曲というものがあって、「これは最後に録るべきものだろうな」と思って後に回すことがある。絵を描くときも同じで、2つの物語の結末に当たるお祭りのシーンは最後の方に描きました。

――自分の部屋で描かれたのですか?

 そうですね。シェアハウスの自室の一部屋を、アトリエみたいにして。昼ご飯を食べてから描きはじめて、夜までには描き終えて……酒を飲む(笑)。達成感があるとその日のお酒がおいしく感じるんですよ。絵を描くことは、僕にとっては曲を作ることの何十倍も疲れます。

 コロナ禍でライブやツアーも中止になり、人と会うことがあまりできなかったし、何かしていないと無音という騒音に押しつぶされそうになる。そんなとき、バンドメンバーのDJ LOVEが昔友達と趣味でやっていたネットラジオをよく流しながら描いていました。もともと友達の家で、友達がしゃべっている横で何か作業している時間がすごく好きなので。無音の中で張りつめていかないように、なるべくアットホームな空気を作りながら描いていました。

油絵具を使い、手と指で

――どんな画材で、どのように描いているのですか。

 油絵具をキャンバスの上で、直接、指や手で混ぜながら描いています。油特有の色の混ざり方が好きなんですね。油彩は塗ってそのつど乾かすのに時間がかかるものですが、僕は何とか時間をかけずに描きたくて。筆やナイフも使わないし塗り重ねもしない、独特だと思いますが、ずっとこの手で描く方法でやってきています。

――タルカスの娘・ピヂーのカラフルなお墓が印象的です。

 ピヂーのお墓は、実はかなり初期に描いた絵ですね。一度描きかけてボツにしたものが多い中で、その絵だけは「いいな」と思って、今回、それを見ながら描きました。ちなみにピヂーの名は、ライブで時々使う大型映像投影機の名称から取っています。以前からプロジェクターのくせに可愛い名前だなと思っていたんです(笑)。他の名前もだいたい語感や音の響きで決めています。

 ピンク系の混ざり具合はイメージに近くて、気持ちよく描けました。難しかったのは黄色で、天然の鉱物の性質にもよるのか、同じメーカーでも溶け具合が違ったりして……混ざりにくい黄色を探すのに苦労しました。でもそんな絵の具の選別も楽しい作業でした。

「ブルーノ」(福音館書店)より

救われる瞬間はきっとある

――絵本に込められたメッセージは重いのですが、ビジュアルはカラフルで愛らしいですよね。

 「ファッショナブルにしたい」という気持ちが自分の中にあったと思います。音楽もそうなんですが、これまでの僕の経験から、鎧はフワフワな方が、伝えたいことがうまく人に伝わるような気がして……。僕は性格が強いので、メッセージをフワフワなものの中に隠してちょうどいいくらいなんです。モフモフの心地いいクッションのどこかに小さなトゲが隠れていて、角度を変えるとチクッと刺さるようなイメージかな。

 「Fukaseがこんなものを描いたのか」というところから手にとってもらって、「何だかわからなかったけど可愛い絵本だな」と思ってもらえたら。時限爆弾式メッセージのように心に入って、誰かが他者とのコミュニケーションで、自分の真実と齟齬を感じたときにふっと思い出してもらえたらいいなと思っています。

――コミュニケーションのズレは、家族や友人・職場でも、誰にでも起こりうると共感しました。

 僕も普段からずっとこんなことを考えているわけではなくて、忘れちゃうから、歌や絵にするんです。「なんであいつ、あんなことしたんだよ!」ではなく、「なぜあいつはあんなことをしたんだろう?」と想像して理解できたときに、前に進めたり、何かを許せるきっかけになるんじゃないかなと。

 コミュニケーションにおいて自分が救われる瞬間は、相手の視点を想像し理解することの先にあるんじゃないかと思っています。だからこの絵本は子ども向けとか大人向けとかではなく、強いて言うならば「大ッキライな人がいる人」に、自分が爆発しそうになったときに読んでもらえたらと思っています(笑)。