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「風刺画が描いたJAPAN」書評 政治問う「武器」 欧州に及ばず

評者: 保阪正康 / 朝⽇新聞掲載:2022年02月05日
風刺画が描いたJAPAN 世界が見た近代日本 著者:若林 悠 出版社:国書刊行会 ジャンル:社会・時事

ISBN: 9784336072672
発売⽇: 2021/11/26
サイズ: 26cm/222p

世界の果てから列強居並ぶ現代社会に現れ出た日本のふるまいを、各国はどのように見ていたのか。黒船来航から太平洋戦争勃発までの近代日本史を、150点あまりの風刺画を通して詳細…

「風刺画が描いたJAPAN」 [著]若林悠

 現代社会からは質の高い風刺や諧謔(かいぎゃく)が失われたのではないか。批判精神の欠如といっても良いであろう。本書によると、幕末の江戸では尊王攘夷(じょうい)派への反発から、幕府びいきの風刺画が溢(あふ)れかえったというのだ。明治期には、国民感情を反映した風刺雑誌(「団団珍聞(まるまるちんぶん)」など)が庶民の憂さ晴らしや抵抗の原点となった。
 明治期の海外の風刺画からは、日本が短期間に日清、日露戦争に勝ち、先進帝国主義国を驚かせたことが伝わってくる。
 アメリカの作家が1895年に描いた風刺画では、闘鶏(露仏英など6カ国)の前で日清戦争という殻を破って生まれた新しい鶏(日本)が雄たけびをあげている。1900年にドイツの作家が描いた、義和団の乱に伴う8カ国連合の絵も風刺が利いている。教室の前列は真面目に授業を聞く独伊墺の3国、2列目は喧嘩(けんか)をする英仏、3列目はカード遊びの米露、4列目は1人座る日本といった具合だ。肝心の中国は、地図の前に立たされて涙を拭いている。教師が「毒の必要性」を教える風景という。
 北沢楽天は1907年に日韓の関税問題を風刺画にしている。伊藤博文が韓国で利益を得る一方、列強と折り合いをつける政治的構図が巧みに描かれている。他国の風刺画家にヒケはとらない。ところが昭和に入っての風刺画は国策順応型に変わっていることがわかる。下川凹天の「非常時音頭」(33年)では世界の指導者が非常時音頭を踊っている。アメリカ紙に転載されたが、ルーズベルト大統領の描き方にクレームがついたようだという。
 アメリカの風刺画を見ると、日本はドイツの子分と見られていたようだ。ヒトラーを乗せて人力車を引く日本猿の絵などがその例である(42年)。
 風刺画の歴史を確認すると、「社会問題を考え政治を問う武器」としての風刺精神は、ヨーロッパに追いつけなかったとの著者の理解には共鳴できる。
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わかばやし・ゆう 1968年生まれ。風刺画収集・研究家。著書に『風刺画とアネクドートが描いたロシア革命』など。