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「老人が主人公」藤子不二雄Aさんが1年前、記者に語った幻のマンガ

インタビューに応じる漫画家の藤子不二雄(A)さん=2020年12月2日、東京都新宿区、遠藤啓生撮影

 7日に88歳で亡くなった藤子不二雄(A)(本名・安孫子素雄)さんは2020年12月、朝日新聞のインタビューに応じていた。

 「ご苦労さまです」。都内にある自身の事務所で、安孫子さんは張りのある声で記者を出迎えた。富山県版向けの取材で、「地元のためなら」と取材を快諾してくれた。

 「笑ゥせぇるすまん」の主人公・喪黒(もぐろ)福造が描かれたセーターとバッジ、手には「怪物くん」のキャラクターのコップ。コロナ禍で外出を控える中で新たに始めたことがあると、1冊のノートを見せてくれた。

 「86才 描かない漫画家の ひねもすテレビ、新聞…の老活」

 喪黒の「ドーン」の決めポーズをする半沢直樹や、米大統領選でのトランプ氏とバイデン氏の似顔絵などが見えた。テレビや新聞を見て興味を持ったことをイラストとともに記した創作ノートだという。「これから何年も描くと、時代を振り返れる。こういうことをやってると飽きない」

 デビューから70年。情熱は衰えていなかった。「本当に僕はラッキー。子どもの頃から夢だった漫画家を、この年までやってこれた」「漫画家はしんどい仕事。そろそろ打ち止めにしたいんですけど、描かなくなったとしても一日一日、何とか面白いことを見つけて愉快に生きていきたい」

 今後描きたい作品については、「老人を主人公にした漫画」を挙げた。「日本を一生懸命つくってきた同世代が弱っていく寂しい時代になった。だから、老人が元気の出る漫画を描けたら。キャラクターもタイトルも決まっています」

 記者が「読みたいですね」と伝えると、「一生描けないかもしれないですけどね」と、いたずらっぽく笑った。

 漫画について「『鬼滅の刃』だって『面白かった』だけじゃなくて、『感動した』と。社会現象を起こすまでになった」と語った。ところが、その鬼滅の刃を読んではいないという。それには創作者としてのポリシーがあった。「ほかの人の漫画は基本的に読まないようにしてきた。読むと影響を受けたり、こんなの描けないって思ったりするから」「(故・藤子・F・不二雄さんの)ドラえもんだってちゃんと読んだことないぐらい」

 インタビューは予定を大きく超える1時間半余り。最後には「コロナの時代でつらい毎日だけど、お互い頑張りましょう」と言い、「ドーン」と喪黒のせりふで決めてくれた。

 取材後、安孫子さんから、創作ノートにあった直筆のイラストが添えられたお礼のファクスが届いた。「故郷の富山の新聞で私のことを扱って頂いてまことに光栄です!」

(竹田和博)朝日新聞デジタル2022年04月07日掲載

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