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サイトウマド「怪獣を解剖する」(上・下) 「未知を既知に」奮闘する人々

『怪獣を解剖する』(上・下) サイトウマド〈著〉

 若き怪獣学者の女性・本多昭(あきら)は、恩師である芹沢真嗣(しんじ)博士の要請で、瀬戸内海の大豆島(おおどしま)に上陸して息絶えた超大型怪獣の解剖調査に赴く。それは11年前に東京に大災害をもたらした個体であり、彼女はその被災者でもあった。山腹に横たわる巨体は、まるで風景の一部のよう。しかし、本当に死んでいるのだろうか……と彼女は思う。

 もうこの設定と固有名詞だけで怪獣映画好きは小躍りするはずだ。ただし本作の主題は怪獣退治ではない。怪獣体内の有毒物質や寄生虫、何らかの要因で発生する二次怪獣など、危険はある。それでも「未知を既知に変える」ために奮闘する研究者、解体作業を担う派遣労働者、有事に備える特科機動隊員らがそれぞれの仕事に向き合う姿こそが最大の見どころ。一方で「女性が来ることが想定されてない」男ばかりの現場の問題点もきっちり描く。

 被災地住民の葛藤、風評被害、復興の遅れ、地域格差などの描写は、福島の原発事故や能登の地震と重ね合わさずにいられない。怪獣の生態をエネルギーや環境問題と結び付ける視点にも感嘆。それでいて説教臭さのないエンタメたりえているのは、語り口の巧みさとキャラの魅力による。まさに怪獣並みの大型新人の出現に震撼(しんかん)する。=朝日新聞2025年5月3日掲載