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高妍「隙間」 台湾から沖縄へ 宙吊りの時間

©高妍/KADOKAWA (1)902円、(2)946円

 舞台は沖縄。肉親を失い、恋愛でも壁に突き当たり、行き場を失って逃げるように台湾から留学してきた主人公が、葛藤を抱える自分自身と「国家」に向き合い直していく物語だ。

 読み始めると、まず、際だった絵の表現力に目を奪われる。かっちりと明瞭な輪郭線の人物の絵が、しかし作り物めいた冷たさを感じさせることなく、表情から生気が伝わる。頰と口元に差すかすかな赤みが、隠しきれない心の内をまっすぐに伝えているかのようだ。紅潮した顔は噓(うそ)をつけない。そんな絵の魅力が、読む者をこの物語世界にいざなっていくが、やがて展開が進むと、むしろ自らと台湾のアイデンティティーをめぐる物語の熱量の方に、気持ちが引きこまれる。

 植民地として翻弄(ほんろう)され、戦後の戒厳令時代を経た台湾の歴史。それが主人公の現在と重なりながら、やはり葛藤の歴史を抱える沖縄の地で語られる。タイトルの「隙間」を改めて辞書で引くと「物と物との間のあいている所」「人と人との間に生ずる心理的な距離」「あいている時間」とある。台湾と中国、沖縄と日本。その狭間(はざま)で、人の心の距離が、留学という宙吊(ちゅうづ)りの時間の中で描かれる。ひたむきで力強い語りが、深く心に残った。=朝日新聞2025年4月5日掲載