ISBN: 9784414428698
発売⽇: 2022/02/19
サイズ: 21cm/328p
「ADHD大国アメリカ つくられた流行病」 [著]アラン・シュワルツ
「じっとしていられない」などの特徴に代表されるADHD(注意欠如多動症)の概念が日本で普及するのは21世紀に入ってからだ。米国では、その半世紀前から研究がなされ、この名称にたどりつくまでの変遷を知って驚いた。
ADHDは子どもの5%にみられるというのが米精神医学会の推定であり見解だ。だが、実際には15%が診断され、地域によっては男子の3割に上り、大半が投薬治療を受けている。当然、副作用があり、自殺といった事件も起きている。
こうした現状を丹念に描きつつ、背景にある診断基準のあいまいさや医療界における長年の論争、製薬会社による巧みな宣伝戦略をつぶさに検証してゆく。
2013年、米国で勤務していた私は、本書のベースとなるニューヨーク・タイムズ紙の記事に衝撃を受けた。登場する薬が日本では未承認で、ホッとしたのを覚えている。とはいえ、日本でも処方可能な薬はあり、同じような問題がないとは言い切れない。
むろん薬は適切に使えば有益で、恩恵を受けている患者は多い。やっかいなのは本書に出てくる中学校を首席で卒業した青年のように「集中力を高める」という理由から病気を装って薬に手を出すケースである。著者の表現を借りれば「成績向上薬」だ。ただ、動機を一概に否定することは難しい。同じく意識を覚醒させ、依存性のあるカフェインとの本質的な違いを見いだすのも簡単ではない(この原稿もコーヒーを飲みながら書いている)。
子どもから大人へとADHDの「市場」は移りつつある。とかくスピーディーに結果が求められがちな現代において薬への誘惑は弱まることはないだろう。
訳者の2人は精神科医と臨床心理士で、プロの翻訳家ではない。苦労の跡が随所にうかがえた。原著が16年に出版されながらも邦訳される気配がなく、手を挙げたという。こういう仕事こそ評価されていい。
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Alan Schwarz 1968年生まれ。米国のジャーナリスト。公衆衛生問題やスポーツ選手の安全などについて取材。