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「動物園を考える」書評 本音ベースで伝える厳しい現実

評者: 行方史郎 / 朝⽇新聞掲載:2022年05月07日
動物園を考える 日本と世界の違いを超えて 著者:佐渡友 陽一 出版社:東京大学出版会 ジャンル:動物学

ISBN: 9784130622325
発売⽇: 2022/03/22
サイズ: 21cm/165p

「動物園を考える」 [著]佐渡友陽一

 タイトルこそ平凡だが、内容は大胆で刺激的だ。
 日本の動物園はいまだかつて一度たりともまともに経営されたことがない――。自治体職員として動物園の運営にかかわってきた著者の問題意識はこの辛辣(しんらつ)な言葉に象徴される。
 個々の工夫や努力による進歩はあっても、動物福祉や研究では欧米に立ち遅れ、ホッキョクグマのように繁殖が順調とはいいがたい動物もいる。生息地保護の取り組みや情報発信も十分とはいえない。職員の非正規化が進み、このままでは飼育技術の蓄積や継承もおぼつかない。
 厳しい現実の背景には、大半の動物園を地方自治体が所有していることによる構造的な問題があるようだ。たとえばアフリカにいる絶滅危惧種を守る活動に地方の予算を投入することには賛否もある。水族館に比べて入園料が安い理由も歴史的経緯を踏まえた本書の解説を読んで理解した。
 解決のためには寄付など善意の資金をうまく組み合わせた仕組みをつくる必要があるという著者の主張には説得力がある。
 ただ、動物にも権利があるという視点に立てば人工的に飼育して展示するというやり方は、いずれ役割を終える可能性もある(と私は思っている)。おそらくこうした意見も承知のうえで「動物園は必要なのか?」という根源的な問い掛けにも思考を巡らす。
 動物園で働くことに興味ある人を意識したというだけあって、本音ベースで伝えようとする姿勢に好感を持った。「動物園人」といった所々登場する業界用語や裏事情も興味深い。
 動物をめぐる現状をより具体的に知るには、同じ時期に出版された『岐路に立つ「動物園大国」 動物たちにとっての「幸せ」とは?』(現代書館)をお薦めしたい。本紙で連載された記事をまとめた1冊で、園同士で動物を交換しあう事情や動物商と呼ばれる業者にも迫った貴重なルポに仕上がっている。
    ◇
さどとも・よういち 1973年生まれ。帝京科学大講師(動物園学)。共著に『いま動物園がおもしろい』。