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絵本「くまのがっこう」シリーズ・あいはらひろゆきさんインタビュー 子どもたちの一生懸命な姿を描きたかった

20周年を迎えた人気シリーズ

―― 山の上の寄宿舎に暮らす12匹のくまの子たちのあたたかな日常を描いた人気作「くまのがっこう」シリーズ(ブロンズ新社)が20周年を迎えた。作者のあいはらひろゆきさん、あだちなみさんは、いずれも『くまのがっこう』が絵本デビュー作。愛らしいくまの子たちの世界は、あいはらさんの長女誕生を機に生まれたという。 

 僕は以前、広告会社に勤めていたんですが、当時の僕は仕事人間で、夜中まで仕事して、朝帰ってまた夕方出ていく……といった具合の、非常に殺伐とした生活を送っていたんですね。それが1999年に娘が生まれて、生活が一変しました。共働きだったので、妻と分担しながら子育てする日々が始まったんです。

 子どもに読み聞かせをしようと思って、絵本を100冊近く買い込みました。僕自身は絵本を読んだ記憶がほとんどなかったのですが、子どもに読み聞かせをするうちに、絵本というのは魅力的なメディアだなと感じるようになって。子どもそっちのけで好きな絵本を読むようになりました。

 娘は1歳を前に保育園に通い始めました。送り迎えは僕の担当だったので、保育園の中まで入っておむつ替えしたり、群がってくる子どもたちと遊んだりして、たくさんの子どもたちとコミュニケーションをとるようになりました。頭もおしりも大きな子どもたちが、とことこと園庭に出て行ったり、みんなでわいわい給食を食べたりする様子はとてもかわいかったし、自分たちの力で精いっぱい何かに取り組む子どもたちと、それを見守る先生たちを見ていると、保育園ってなんてあったかい世界なんだろうと、とても感動しました。そして、この世界を絵本にできないかと思うようになったんです

―― 絵本を作ろうと思ったあいはらさんは、当時同じ会社で働いていたあだちなみさんに声をかける。あだちさんはドイツのぬいぐるみブランド「シュタイフ」の仕事をしていたことがあり、くまの絵が得意だった。

 彼女が便せんいっぱいに描いてきたくまの子たちの絵と、僕が保育園で見た2歳前後の子どもたちの姿がオーバーラップしたんです。これって「くまのがっこう」だよね、と。こうして、保育園の子どもたちの何気ない日常をベースとした「くまのがっこう」の世界が生まれました。

シリーズ第1巻『くまのがっこう』(絵:あだちなみ、文:あいはらひろゆき、ブロンズ新社)より

ジャッキーに子どもを投影

―― 全部で12匹のくまの子たちは、11番目までが男の子。12番目の、おてんばでおませな女の子が主人公のジャッキーだ。くまの子たちは、山の上の寄宿舎に子どもたちだけで暮らしている。

 大人を一切登場させないという設定にしたのは、子どもたちだけで一生懸命がんばる様子を描きたかったから。大人がいると、つい手助けしてしまいますが、「くまのがっこう」では、ジャッキーが困ったときには年上のおにいちゃんたちががんばって助けてくれます。ただ、ちゃんと愛されているんだということも伝わるように、地の文には母親的な目線を入れました。親が見守ってくれているからこそ、くまの子たちは毎日元気に楽しく暮らしていられるんです。

おませでしっかり者だけれど、ときには大泣きしてしまう末っ子のジャッキー。『くまのがっこう』(絵:あだちなみ、文:あいはらひろゆき、ブロンズ新社)より

―― 読者からは「うちの子はジャッキーにそっくり」といった声がよく届き、熱いファンも多い。ジャッキーというキャラクターに普遍的な子どもらしさが詰まっているからだ、とあいはらさんは話す。

 ジャッキーたちはくまのぬいぐるみという設定にしていますが、僕はあくまで人間の子どもたちの世界だと考えているんですね。僕が、娘や保育園の子どもたちから学ばせてもらった子どもらしさを物語の中のジャッキーに注ぎ込み、あだちさんがすばらしい絵の力で、しぐさや行動、表情を創造して、姿をもったキャラクターとして生み出してくれました。ビジュアル的なかわいさもありつつ、内面性を強く持った子どもらしいキャラクターということで、多くのお母さん方が自分の子どもを投影させて、熱心に支持してくれているのではないか、と思っています。

子育ての期間は短い

―― 「くまのがっこう」シリーズに描かれているのは、何気ない日常の大切さだ。あいはらさん自身も、子育ての中で毎日の暮らしを大切にしてきたという。

 わが家の場合、妻がとても忙しかったのと、僕に時間的な余裕のある時期だったこともあって、僕の方が子育てをする比重が高かったんですね。保育園の送り迎えやお弁当作りなども僕が担ってきましたが、どっぷり子育てができたことは、僕にとって非常に幸せなことで。子どもとの暮らしの中で、一瞬一瞬がとてもかけがえのないものだということを日々感じていました。

 たとえば、仕事から帰ってきたら、子どもが玄関まで猛スピードで走ってきて飛びついてくれる、みたいなことは、親なら誰しも経験する光景だと思います。冷静に考えてみると、こんなにも人から愛される時間、これほどまで愛おしい存在と一緒にいられる時間というのは、子育てのごく短い期間だけ。他愛もない日常の積み重ねが、生きていく上でどんなに大切なものか、親になって初めて気づかされました。

おしゃれな洋服や雑貨の数々も「くまのがっこう」の見どころのひとつ。『ジャッキーのおたんじょうび』(絵:あだちなみ、文:あいはらひろゆき、ブロンズ新社)より

 もちろん実際の子育ては大変なことばかりでしたけれども、気持ちの持ちようひとつですよね。親になると、いつも「早く早く」と子どもを急かしてしまいがちですが、1分でもいいから子どもが何かするのを待つ。そういう余裕さえあれば、自分も子どももすごく楽になります。しんどいときは、親であることのすばらしさを思い返してもらえたら、前向きに子育てできるんじゃないかなと思います。

――「くまのがっこう」20周年を記念して、あいはらさんが営むひとり出版社・サニーサイドブックスから『くまのがっこうの子育て』が出版された。講演会で人気のエピソードを中心にまとめた、「くまのがっこう」の絵も満載の子育てエッセイだ。

 「くまのがっこう」の中には、僕の子育ての経験や子どもへの思いが詰まっています。新米のお父さんお母さんが子育ての楽しさを知るきっかけや、日々の子育てをする上でのヒントになればと思って、エッセイにまとめました。「くまのがっこう」ファン向けに制作秘話も載せています。

 サニーサイドブックスは、他社がなかなかチャレンジしにくい企画を自分で出版できればと立ち上げた出版社です。売れる・売れないがすべての価値ではないので、昨年出した震災の絵本『笑顔が守った命』のように、少部数でも出版すべき本を作っていきたいなと思っています

「くまのがっこう」シリーズ ©BANDAI