1. HOME
  2. 書評
  3. 「政治学者、PTA会長になる」書評 センス光る人間関係の摩擦分析

「政治学者、PTA会長になる」書評 センス光る人間関係の摩擦分析

評者: 阿古智子 / 朝⽇新聞掲載:2022年05月14日
政治学者、PTA会長になる 著者:岡田 憲治 出版社:毎日新聞出版 ジャンル:エッセイ

ISBN: 9784620327303
発売⽇: 2022/02/25
サイズ: 19cm/277p

「政治学者、PTA会長になる」 [著]岡田憲治

 大学教授の「オカケン」(著者)は、ジャイアンツファンの多い街で、真っ赤な広島カープのユニフォームで走り回る「でっかい隠れキリシタン」。「魔界」からの要請で小学校のPTA会長に就任するが、形式的な会議が続き辟易(へきえき)する。
 運動会ではお茶出しシフトが組まれ、どう考えても非効率でやる意味のないベルマークや古新聞の収集は廃止できない。異動教員の送別会や地元の名士を招いての「マジ地獄」のお月見会など、「誰も幸福になっていない」ことに多大なエネルギーをかける。
 変えるのは不安で「変だよ。おかしいよ」の一言が言えない。平等に仕事を振り分けようとポイント制度が導入されており、仕事を引き受けない保護者には「査問大会」を開催する。
 任意参加のPTAで、なぜ保護者は「苦しみと我慢と無理」をするのか。対価のある「労働」ではないボランティア活動はそもそも不平等だが、それを「幸福な不平等」にできないのか。
 オカケンは、「先人がもたらし錬磨してきた手引き」に「厳密に対応することで失敗や誤謬(ごびゅう)の確率を下げて、計算通りの結果を安定的に確保する」オペレーターでなく、不透明な環境の下でもメンバーとコミュニケーションを重ね、臨機応変に決断できるリーダーこそが、生活の足枷(あしかせ)になるようなPTAを変えられると強調する。
 本書の観察には全面的に賛同するが、私にはここまで赤裸々に自分が参加するPTAを描けそうもない。オカケンは、女性が中心的に担うPTAを一歩引いた視点から見ているのだ。だが同時に、自らの立ち位置から「正しいことをそのまま言う」ことで生じた人間関係の摩擦を繊細に分析するセンスが光っている。
 私自身はPTAを学校と保護者が共に教科書や授業の内容を検討し、オープンに子育ての悩みを議論できる場にしたい。それが実現すれば、日本社会が大きく変わるはずなのだが。
    ◇
おかだ・けんじ 1962年生まれ。専修大教授(政治学)。著書に『なぜリベラルは敗(ま)け続けるのか』など。