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「パープル・ハイビスカス」書評 歴史のひずみ生きた家族の肖像

評者: 江南亜美子 / 朝⽇新聞掲載:2022年07月02日
パープル・ハイビスカス 著者:チママンダ・ンゴズィ・アディーチェ 出版社:河出書房新社 ジャンル:小説

ISBN: 9784309208510
発売⽇: 2022/05/20
サイズ: 20cm/315p

【ハーストン/ライト遺産賞(2004年)】【コモンウェルス作家賞(2005年)】厳格な父に育てられた少女カンビリ。軍事クーデタに備えて預けられたおばの家で、自由な価値観を…

「パープル・ハイビスカス」 [著]チママンダ・ンゴズィ・アディーチェ

 物語の舞台はナイジェリア。聡明(そうめい)だが内向的な15歳の少女カンビリは、厳格な父と従順な母、兄のジャジャとで裕福に暮らす。英国人宣教師の導きでカトリック教徒となり、貧しい生まれながら現在は圧倒的な財を築いた父は、自分のルーツであるイボ民族の文化を否定し、西欧流の価値観を家族に強要する。それは伝統宗教を信じる実父を「異教徒」と呼び、きびしく遠ざけるほどだ。
 経済的には恵まれながら、テレビやポップ音楽も享受せずにきたカンビリたちは、クリスマス休暇で叔母の家を訪れた際、はじめて外の世界を知る。同世代の利発な姉弟もふくめ、狭くも居心地のいいアパートで皆と寝食をともにするうち、リラックスという概念を体得するのだ。声のよいアマディ神父に「いい脚をしてる、走るにはもってこいだ」と言われたことも心を開くきっかけに。「わたしは笑いながら走って、大きな声で笑ったのだ」。恋心の芽生えでもある。
 しかし新鮮な生活は続かない。屋敷に連れ戻され、祖父との接触を理由に父に折檻(せっかん)されるのだ。なぜそれが「罪」となるのか。カンビリとジャジャの反抗心の強まりは、自由を象徴する紫のハイビスカスの茎を隠し持つことにも表れる。
 父の暴力性は容赦ない。ただそれが嗜虐(しぎゃく)ではなく、彼の受けた教育や体験、思考から導き出された「愛」の一様態であることも、読者は了解できる。宗主国イギリスからの独立後も、軍事クーデターと宗教対立、内戦によって幾度も傷ついたナイジェリアの歴史のひずみを、父はその身に引き受けてきた。懲罰=恐怖による支配しか知らない、悲しき人物なのだ。
 一家を崩壊させるくびきについて、歴史的背景もクリアに描きつつ、家族の恢復(かいふく)のきざしを感じさせる構成は巧み。母と叔母との連帯や、ジャジャの自立など、物語の奥行きは深い。デビュー作から才気煥発(さいきかんぱつ)だった作家に、あらためて感服だ。
    ◇
Chimamanda Ngozi Adichie 1977年、ナイジェリア生まれ。作家。19歳で渡米。著書に『アメリカーナ』など。