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ディーリア・オーエンズ「ザリガニの鳴くところ」映画化記念インタビュー 「カイアはみんなの中にいる」

ディーリア・オーエンズさん

日本の本の表紙が一番好き

――今日はどちらにいらっしゃるのですか?

 カリフォルニアです。映画のためにハリウッドにいます。

――現在の住まいはどちらですか?

 ノース・カロライナ州です。

――『ザリガニの鳴くところ』の舞台と同じですね

 そうなんです。山に囲まれた自然の中で、馬たちと一緒に暮らしています。

――『ザリガニの鳴くところ』は日本では本屋大賞(翻訳小説部門)に選ばれるなど、今も人気です。

 みなさんから受け入れられて、とても感謝しています。物語を通じて世界中の読者とつながることができたことも、ありがたく思っています。日本の読者からは、ソーシャルメディアを通じてメッセージをたくさん頂いて、とてもうれしく思ってます。世界中で出版されましたが、日本の表紙(装画)が一番きれいで気に入ってます。柔らかい色が使われていて、小説の主人公カイアが住んでいるような、平和な雰囲気が醸し出されているところが素敵です。

『ザリガニの鳴くところ』(早川書房)

60歳を超えて小説家に

――フィクションを書こうと思ったのはなぜですか?

 以前は、動物学者としてノンフィクションを書くことが好きでした。例えるなら、ノンフィクションは牧場の敷地の囲いの中で馬に乗っている感覚です。フィクションは、囲いから出て森の中などを自由に駆け回る感覚です。時系列などに関係なく、自由に書けるところが面白いと思い、フィクションを書き始めました。

――「ザリガニの鳴くところ」はいつ頃書き始めたのですか?

 この本を書くのに10年かかりました。今73歳なので、60代前半から書き始めました。長い間動物学者としてキャリアを積んでいたのですが、そろそろ引退という時期に来て新たな挑戦を始めました。当時はアイダホ州に住んでいて、熊や狼の研究をしていました。朝、4時半に起きては書いていました。小説を書くことはキャリアを積む必要もなく自由にできたので、新しいことを始めるのにもいいタイミングでした。

好奇心旺盛なベルベットモンキーたちがディーリアさんの車に集まってきた=ザンビア、1986年 (c) Mark Owens

――本書には、ディーリアさんのどんな思いが込められているのか教えてください。

 小説を書くときは、次々とページをめくりたくなるように物語が展開することを念頭に置いていました。主人公のカイアには、いろいろな困難に何度もぶつかっても立ち上がって生きていくという、私たちみんなに共通するところがあります。世界中の読者が共感してくれたことで、あらためてカイアはみんなの中にあるんだと思いました。

 この本が出版されたのは2018年で、コロナ禍の前でしたが、その後ステイ・ホームなどで読書をする人も増え、孤独なカイアに共感する人も増えるという、偶然の部分も多かったのです。カイアがどんなに孤独でいろいろな困難に会っても、そのたびに明るくハッピーに人々と接して、のびのびと生きてきたという点が、読者の共感を得た理由だと思います。 人間の行動は動物たちに近いものがあり、本能に突き動かされることが多くあるのです。人間は時に本能のみに従って、薄っぺらな行動をすることがあります。それは自然が我々が生き延びるために教えてくれるメッセージでもあります。人間は人間を必要とします。カイアは孤独に置かれた状況の中で、ずっと誰かとつながりたいと思いながら生きています。人と人がつながることがどれ程重要かというメッセージなんです。

映画は繊細な感情を上手く表現

映画『ザリガニの鳴くところ』より

――完成した映画をご覧になっていかがでしたか?

 とても満足しています。小説の美しさ、やわらかさ、繊細な感情などすべてが上手く表現されています。ミステリーの部分も面白く描かれています。3回ほど撮影現場に行き、立ち会いました。その度に、自分が書いた言葉を俳優がセリフとして発するのを見て感動していました。

――映画化にあたって、こだわった点はありますか?

 一番重要だったのは、ストーリーに忠実であってほしいということでした。リース・ウィザースプーンをはじめとするプロデューサーは、すでに本を読んだ人もあらためて映画を楽しめるようにということを、意識しながら作ってくれました。ロマンスもミステリーも原作に忠実に描かれ、ひじょうに美しい作品に仕上がっていると思います。

――映画のキャスティングについてはいかがですか?

 10年もかかって書いた私にとっては大事な登場人物たちなんですが、キャスティングにはとても満足しています。とくに、ディジーはまさにカイアそのものでした。 テイラー・ジョン・スミスもテイトのイメージにぴったりでした。

映画『ザリガニの鳴くところ』より

 以前から『ザリガニの鳴くところ』を愛読していたテイラー・スウィフトが主題歌「キャロライナ」を書き歌っています。テイラーは自身のSNSでこのように語っています。
「数年前にこの本を読んだ時、我を忘れてのめりこみました。だから、この作品がデイジー・エドガー=ジョーンズ主演、リース・ウィザースプーンのプロデュースのもとで映画化されると聞いて、ぜひ音楽面で関わりたいと思いました。私はこの“キャロライナ”という曲を書き、友人のアーロン・デスナーにプロデュースをしてもらいました。この魅力的なストーリーに合うような、印象に長く残りどこかこの世のものとは思えないような雰囲気を持ったものを創りあげたかったのです」

映画『ザリガニの鳴くところ』の主題歌 テイラー・スウィフト「CAROLINA」

テイラー・スウィフトの歌は主人公の声のよう

――テイラー・スウィフトの主題歌はいかがですか?

 テイラーが主題歌を作ってくれると聞いて、とてもうれしく思いました。彼女が、私の作品を気に入って読んでくれていたというのもうれしかったです。出来上がった曲は、この作品の美しさ、自然の音と人間の心が上手く調和されていて、まるで主人公のカイア本人の声を聴いているようで、とても気に入ってます。

――次の作品を出筆していると聞きましたが、どんな作品なのか教えてください?

 次の作品に取り掛かかっているのですが、映画や本のキャンペーンなどで今は忙しく、なかなか進んでいません。『ザリガニの鳴くところ』と同様に、人間がどれだけ自然から学ぶことができるのかということがテーマになっています。フロリダ北部が舞台で、三世代にわたる家族の話です。主人公は若い女性で、曾祖母の日記を紐解いていくというストーリーです。

 前作を書くのに10年かかりましたので、まだまだ完成には時間がかかると思います。次の作品についても、こうしてお会いしてお話しできるのを楽しみにしています。

――日本のみなさんにメッセージをお願いします。

 日本の読者には本当にありがたく思っています。感謝の気持ちを伝えたいです。 本を楽しんでくださった方には、映画もとても満足していただけると思います。とても美しい映画なので、楽しみ待っていてください。