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「動物行動学者、モモンガに怒られる」書評 よく観察し「少しの我慢」を提案

評者: 石原安野 / 朝⽇新聞掲載:2022年07月09日
動物行動学者、モモンガに怒られる 身近な野生動物たちとの共存を全力で考えた! 著者:小林 朋道 出版社:山と溪谷社 ジャンル:動物学

ISBN: 9784635063142
発売⽇: 2022/04/26
サイズ: 19cm/300p

「動物行動学者、モモンガに怒られる」 [著]小林朋道

 田舎育ちのせいか生き物が好きだ。と、言っても虫はできれば離れて見たいという程度のものである。
 動物好きを公言するほどではなくても、日々、身近な生き物の行動に和んでいるという方も多いだろう。動物行動学者である著者の本にはいつも楽しく読んでいる『先生!』シリーズ(築地書館)もあり、登場動物(人物)たちの面白さは折り紙付きだ。アカネズミ、モモンガ、スナヤツメ、ドバト、シカ、ヒキガエル、タヌキ、コウモリ、アカハライモリ。本書では派手ではないが、身近な生き物が教えてくれるほんわかとする発見に満ちている。
 本書のテーマ「野生動物と人との共存」は、その生活範囲が重なるときには大変難しい問題だ。農作物被害をゼロにすることは難しい。一方、その進化史の殆(ほとん)どが狩猟採集時代という人類は環境保全という概念を生得していないと著者は指摘する。未来のために自然や動物を守るという考えが意識をしないと頭に浮かばない。そんな人類が野生動物との共存という観点から、この数百年の環境変化に対応するにはどうしたらいいか。初めの一歩は自然や動物をよく観察することだ。そして、少しの我慢を近隣住人以外の人間も含めてシェアするという対応もあり得る、と提案する。
 ある大がかりな害獣駆除により、その害獣より食物連鎖が下の動物が増えすぎ、結果、その動物が食する植物が瀕死(ひんし)の状態になることがある。それで、水を溜(た)める山や森が壊滅状態になれば大きな問題だ。雨を早く流すため川が直線化されコンクリートで護岸されてしまえば、どう考えても浅瀬や植物に囲まれる多様な水生動物の生息には向かない。それが我々の求める生きやすい環境なのか。
 長期的な視点で専門家と共に、これまでの当たり前であったやり方を少しずつ見直すことはできないか。人間と野生動物のそれぞれが、今よりももう少しずつ、幸せに暮らすために。
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こばやし・ともみち 1958年生まれ。公立鳥取環境大副学長(動物行動学)。著書に『ヒト、動物に会う』など。