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映画「私にふさわしいホテル」主演・のんさん×原作・柚木麻子さん対談 文学界をのし上がれ!ヘンテコ大作戦

のんさん(左)と柚木麻子さん=junko撮影

(C)2012柚木麻子/新潮社 (C)2024「私にふさわしいホテル」製作委員会

文芸誌では絶対に書けない話

――柚木さんの原作がとても面白くて一気読みしました。映画化されても実に痛快で、破天荒な主人公・加代子から目が離せません。演じるにあたり、のんさんは原作を読みましたか?

のん もちろんです。原作も素敵なシーンばかりで、好きなところがいっぱいあるんですよね。なかでも原作にあって、映画では描かれていないシーンで、加代子に彼氏ができて原稿が書けなくなってしまうところのやりとりがすごく好きでした。

柚木 嬉しいです。本当に私が山の上ホテルに泊まっている時に思いついた妄想が、こんなふうにこのキャストで山の上ホテルで撮影することになるとはまったく予想していませんでしたし、のんさんが主演と聞いて「やったー!」と思いました(笑)。

のん よかったです(笑)。

――原作は柚木さんの妄想を物語にしたということでしたが、他にどのような背景があったのでしょうか。

柚木 この作品は、もとは東日本大震災の復興支援のために2012年に刊行されたチャリティー書籍『文芸あねもね』(新潮文庫)のアンソロジーのひとつなんです。当時は今ほど権威ある位置付けではなかった「R-18文学賞」に由縁のある10名の女性作家が作品を書き上げました。デビュー前にこの文学賞に応募して落ちているんですが、他の作家さんたちとは仲良くて、みんなで温泉に行った時に「ちょっと好きに書いてみたら」と言われて、のびのびとした環境で、生まれて初めて好きに書いたものがこの作品なんです。

 私は今もお世話になっている文藝春秋さんから作家デビューしました。「ここで育ったら伸びる」といわれるぐらい、とにかく新人作家はしごかれることで有名なところです。最初に文芸誌に載るまでがとても大変なのですが、やっと文芸誌でデビューはできても、なかなか自分の本が出ないことはよく聞く話なんですよね。だから、この『私にふさわしいホテル』は、文芸誌では絶対に書けない話でした。そういう面からも面白く思ってもらえたら嬉しいですね。

悪い役を待ち望んでいた

――のんさんは、加代子として映画で大暴れしていましたね?

のん ふふふ。素晴らしい役でした! 山の上ホテルにも通いたいくらいですし、不遇な状況に置かれてもへこまずに立ち向かっていく加代子が面白くて、カッコ良くて。私がこれまでやってきた役の中で、一番性格が悪いと思いますが(笑)、そこがまた楽しかったです。

――加代子とのんさんの共通点はありますか?

のん 私は悪い役をずっとやりたくて待ち望んでいたので、お話をいただいた時は本当に嬉しくて、「頑張ろう!」という気持ちでいっぱいでしたね。加代子と共通するところは、何があってもへこたれないところや、仕返ししたいと思った時に、ヘンテコな作戦になるところでしょうか。

――のんさんも仕返しすることがあるんですね?

のん 仕返し癖があるかもしれないなと(笑)。今回演じてみて、今後は加代子のように、ド派手にやりたいなあと思いました。

「生きる力が強そう」

――ド派手宣言ですね(笑)。映画の撮影前にはおふたりの面識はなかったとのことで、もし会えていたら、のんさんは柚木さんに聞きたいことがあったそうですが……。

のん この映画を手がけた堤幸彦監督のはからいで、現代の設定を1980年代にして撮影したんですが、この時代設定はいかがでしたか?

柚木 設定を変えると聞いた時、何の抵抗もありませんでした。執筆するパソコンが万年筆になるような違いだけなのと、80年代のほうがさらに加代子がのびのびできる気がして。むしろ映画化するにあたって、加代子がちょっといい人になったらどうしようとは考えましたが、のんさんが主演ならそれでもいいかと。でも、原作通り、性格の悪い加代子で面白かったです。

のん その悪さ度合いは、撮影前にもしお会いできていたら、おうかがいしたかったなと思っていました。

柚木 加代子はもうめちゃくちゃ性格が悪いですよ(笑)。でも、のんさんの加代子を見て、目がギラギラしているところ、よく食べるところ、人の家でもどんどんお酒を飲んでしまうところも、すべて生きる力が強そうですごくいいなと思いました。

のん よかったです! 

――柚木さんは、映画のあるシーンにご出演されていましたね?

柚木 出ています。もともと日本の実写映画が大好きで、文化人が映画に出ているのを見つけるのも好きで。その文化人自身が出演したことを忘れていたとしても、私は一度見たら覚えているので、「あの時、こういう演技をしていましたよね?」と、ご本人に聞くのも好きなんです(笑)。本業ではないからといって、照れた感じで出るのがいやなので、全力の演技をしています。

――劇中で加代子が書店員さんの機嫌を必死にとる場面もありますが、柚木さんは「デビューしたばかりの頃の自分を重ねて何度も泣きそうになりました」とコメントしていました。ご自身の思い出が、映画化されてさらに蘇ることもありましたか?

柚木 加代子のように、今も1人で書店回りをしますよ。書店のバックヤードには万引き犯の啓発ポスターが貼ってあるので、新人の頃は「この犯人を捕まえたらポップを書いてくれるかな?」と思ったことがあります(笑)。妄想ですね。そういった経験もこの作品に役立っています。

「今日もどこからか声が…」

――のんさんは、かねてより堤監督の作品に出てみたいと思っていたそうですが、撮影現場でご一緒してみていかがでしたか?

のん 本当に面白かったです。堤監督はこれまでの作品からも感じていたヘンテコなシチュエーションや、少しB級っぽいシーンをおしゃれにスタイリッシュにかっこよく撮られるところがとても魅力的。ダジャレがお好きなので、よく現場でもダジャレをおっしゃるんですが、そのダジャレもなんだかすごく高級な言葉に聞こえてくるんです(笑)。現場のどこかにスピーカーが置かれていて、カメラが回り始めたら、そのスピーカーから監督の演出が聞こえてくるんですよ。「今日はどこから声が聞こえてくるんだろう?」と、スピーカーを探すのが日課でした。

――堤監督はキャストのみなさんがお芝居をする場所から離れたところにいて、撮影する場所のどこかにいつもスピーカーが置かれているんですね?

のん そうです。たとえば山の上ホテルのカーテンの影に置いてあったり。現場では、巧みに隠されているスピーカー探しも面白かったです。

柚木 たぶんスピーカーを隠すのは、山の上ホテルの部屋のシーンだと、カメラを置く場所がないからなのかなと。堤監督は小型のカメラをいっぱい駆使して、俳優さんだけを部屋に入れて、別の部屋でモニター映像で音を拾っていたのだと思いました。

――堤監督の工夫が垣間見えますね。ところで、のんさんは最近、どんな本を読みましたか?

のん 京極夏彦先生の「京極堂・百鬼夜行シリーズ」の番外編『今昔百鬼拾遺 鬼』(講談社)がすごく面白かったです。あとは漫画『ダンダダン』とか『忘却バッテリー』(ともに集英社)も読みました。