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三好愛さん初絵本「ゆめがきました」インタビュー「眠るのが苦手な子も、夢を楽しみながら眠って」

三好愛さん=篠塚ようこ撮影

夢は「来る」ものだから

――『ゆめがきました』という不思議なタイトルがいいですね。「見るんじゃなくて、来るんだ?」と思わず手に取ってしまいそうです。三好さんにとっては初の絵本になりますが、いつ頃から構想があったのでしょうか。

 始まりは2021年頃、絵本専門の編集者である筒井大介さんから「絵本を描いてみませんか」と声をかけられたのがきっかけでした。それまでに絵本を描いた経験はありませんでしたが、なんとなく「自分はたぶん得意では?」という気がしていたんですよ。

 でもいざ描いてみたら、めっちゃ難しかったです。軸になるテーマが見つけられずに、何度もラフを描いては筒井さんに送り、また描き直して、というやり取りを半年ほど続けていく中で、「現実と、現実じゃないもののあいだのこと」なら描けるように思えた瞬間があったんですね。

 私、眠るのがすごく苦手で。

 でも明日の仕事の順番とかいろんな現実のことを考えているうちに、ちょっとずつ眠気がやってきて、思考が混濁してくるというか、仕事の順番の合間にカキフライが割り込んでくる、みたいなことってありますよね?

――カキフライ(笑)。突然、別のことが思い浮かぶことはありますね。

 だから私にとって眠りは「やってくるもの」という意識があったし、現実のところに、現実じゃないものが入り込んでくる、あの感覚であれば描けそうな気がしたんです。そこでようやくテーマが固まって、じゃあ絵もこんな感じかなと描き進められるようになりました。

――絵本の中では、眠りについた人間たちのところへ、「ゆめ」が続々とやってきます。もわもわのおばけのような「ゆめ」もいれば、小動物のような「ゆめ」もいる。夢を見ているはずの人間と「ゆめ」の境界線もどこか曖昧で、くっついたり伸びたりと自由な世界が広がっていますね。

 最初は「ゆめをみました」と書いていたのですが、それだとどこか自由になりきれなかったんですよね。夢とはいえ自分の脳内で生まれたものなのだから、なにかしら現実と続いているはずで、そこで起きることは自分のせいだと思ってしまいそうな意識があって。

 でも、「ゆめがきました」であれば、もう外から勝手に来る「ゆめ」だから、その夢の中では何をしたっていいし、何だってできる。自由になれるんです。

 私は自己責任論のような考え方が嫌いなのですが、「全部を自分のせいにしなくてもいいし、外からやってくるものに身を委ねてもいいんだよ」という思いもこの絵本に込められた気がしています。

眠るのが苦手な子の「おやすみ絵本」に

――「かぜにのって とんでいく ゆめ ごうごう ふわふわ ぴょうぴょうぴょう」のように、声に出すと楽しくなるオノマトペがたくさん出てくるのも絵本ならではの醍醐味です。

 ちょうど子どもが2歳のときに文章の仕上げを考えていたので、やっぱり親の自分が読み聞かせて楽しい音がいいな、という気持ちがありました。

 風の吹く音として「ぴゅうぴゅうぴゅう」だと普通すぎるから「ぴょうぴょうぴょう」かな、といった感じで、口ずさんで楽しくなるような擬音語を選んだつもりです。

――夜空でゼリーを食べたり、猫と温泉に行ったり、玉になって転がされたり……次のページではどんな「ゆめ」が待っているんだろう? と大人もワクワクしてきますね。

 また子どもの話になってしまいますが、うちの子は夜になってもまったく寝ないタイプで、「寝かしつけってこんなに大変なんだ!」と子育てを通して私も初めて知ったんです。

 だからこそ、夜でも元気でなかなか眠りにつけない子どもたちに向けて、「眠ると楽しい夢が待っているからね~」と説得したいような気持ちも込めて描いています。

 絵本の中にはいろんな子どもが出てきますが、お母さんたちが安心できるように、どの子も寝顔や寝相はめっちゃかわいく描いたつもりです。この絵本を読んだ子どもたちが、夢を楽しみにしながら眠りについてくれたら嬉しいですね。

――顔のあたりに黒丸の目が2つ並ぶ「生きもの」たち。デビュー以来ずっと三好さんの作風を象徴するこの不思議な生きものたちが『ゆめがきました』では大勢登場します。一貫してこの「生きもの」たちを描き続けているのはなぜでしょうか。

 昔から具体的なものを描くのがあまり得意ではなかったことが理由のひとつです。イラストレーターになったばかりの頃は、コンペも落ちまくりで、「絵が抽象的すぎる」と言われて仕事もなかなかもらえませんでした。

 でも逆に、その曖昧で抽象的なところが、人間の感情のような曖昧なものに関する小説や人文書の装画とは相性がよかったみたいで。形に起こせない曖昧な感情を、曖昧なまま描くということをずっと続けてきたら、必要としてもらえるようになった気がします。

 それに表情が単純だと、見ている人がいろんな感情を想像しやすくなるかなとは思うんですよね。描き手が感情を決めきらないほうが、広がっていけるのではという意図があります。

 私の場合は具体的なものが描けない開き直りから、すべてのものを曖昧に描くようになりました。それが応用力としていい感じに身についたのかもしれません。

馴れ合いの中で、夢が来るのを待ってもいい

――「できれば曖昧さを残したい、断定はしたくない」という考え方は、三好さんのもとからの性格に由来するのでしょうか。

 もとから優柔不断だというのも関係しているとは思いますが、昔からずっと「みんながみんな、自分発信ですべてを決めなくてもいい」という気持ちはあります。

 例えば、「子どもの自発性や自主性を重んじます」という教育方針を強く掲げる保育園を見たりすると、なんか少しだけとまどっちゃうんですよね。

 そんなに無理に自分を決めようとしなくても、環境との馴れ合いの中で、自分というものをゆっくり見つけていけばいいんじゃないかな、と思っています。

 だから夢違いになりますけど、「将来の夢」なんかも急いで自発的に決めなくていい。夢が向こうから来るのを待っていてもいいんだよ、と絵本の「ゆめ」を通じて子どもたちに伝えたいな、とも思いました。

――カラフルな色遣いも印象的です。夜見る夢のお話ですが、後半はパレードのような賑やかさもありますね。

 昔はモノトーンの色調が多かったのですが、色を多く使うようになってから仕事の幅も広がったかもしれません。星野智幸さんの新聞連載小説『ひとでなし』の挿絵を1年間、描き続けた影響は大きいですね。

 『ひとでなし』は説明するのが難しい小説ですが、すごく不思議な幻想を超リアルに描くような内容だったので、1年かけて自分の絵の色遣いも自然と明るくなっていったのだと思います。

 

――お祭りのような賑やかな夜が終わって、静かに朝が来るシーンの美しさは格別です。

 眠りから覚めるときって、夢の余韻がちょっとだけ残っていて、でも朝が押し寄せてくる感じがありますよね。この見開きはそんな感覚を再現できたらな、と思いながら描きました。

「好き」も「わからない」も受け止めて描き続けたい

――ちなみに、三好さんが子どものときに好きだった絵本は?

 『ムッシュ・ムニエルとおつきさま』(佐々木マキ/絵本館)のちょっとシュールな面白さが大好きでした。あとは『からすのパン屋さん』(かこさとし/偕成社)も楽しく読んだ記憶がありますね。

 うちの場合は母親が読み聞かせをそんなにしなかったので、わりと早くから自分ひとりで本を読むようになったんですね。だから今、自分が親になって初めて読むことになった名作絵本が実はたくさんあることを知りました。

 せなけいこさんの『ねないこだれだ』(福音館書店)や『おばけのてんぷら』(福音館書店)を読んでみたら、「絵本ってこんなにシュールでもいいんだ」と驚かされましたし、「ぐりとぐら」(中川李枝子、山脇百合子/福音館書店)シリーズの『ぐりとぐらのかいすいよく』などは意外と読んでいなかったのですが、あらためて読むと結構複雑な物語だったりするんですよね。

 でも子どもの頃の自分が読んでいたら、「これは変だな」とは多分思わなかっただろうし、もっと素直に感じていたように思うんです。大人になった今読んでいるからこそ、視野がちょっと狭くなっているのかもしれない。最近、子どもと一緒に絵本を読んでいるとそんな風にも思います。

――イラストレーター、エッセイスト、そして絵本作家と活動の幅をどんどん広げていますが、これから挑戦したいことはありますか。 

 絵本はもうちょっと続けていきたいなと思っています。次はお話を他の作家さんに書いてもらって、私が絵を担当する、という作り方もしてみたいです。装画のお仕事をたくさんやっているせいか、文章に対して絵を描くことは性に合っている気がします。

 小説でも歌でも、イラストを描く仕事って対象の創作物とのコミュニケーションだと思うんです。そこに込められた表現をきちんと受け止めて、「好きだな」と思ったり「わからないな」と思ったり、まずは受け手としての実感を確かめたうえで絵を描きたい。

 基本的には流れに身を任せる受け身なタイプなのですが、そこは今後も大事にしていきたいことです。

 それと、私自身、佐々木マキさんが装画を描いていたことがきっかけで、大人になってから村上春樹さんの小説を読むようになったりしました。そんな風に『ゆめがきました』を読んだ子どもたちが、成長してから私が装画を担当した小説や本を手に取ってくれたらとてもうれしいなと思います。

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