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佐滝剛弘さん「観光消滅 観光立国の実像と虚像」インタビュー データで解明する問題点

佐滝剛弘さん

 なんとも刺激的なタイトルである。観光「崩壊」どころか「消滅」とは。城西国際大学観光学部で教える教授が著者とくれば、なおのこと。

 「本当に消えてほしいと願っているわけではないです。危機感を伝えるには、このくらいインパクトがあった方がいいと思って」。観光立国の号令のもと起きているオーバーツーリズムの現状や問題点を、データを示してわかりやすく解き明かす。

 オーバーツーリズムは「可視化できるものと、できないものがある」が持論だ。前者は交通機関の混雑やごみのポイ捨て。後者は人口流出など一見観光と無関係にみえる問題だ。

 たとえば国内有数の観光地である京都市は、2020年と21年の人口純減数が全国の自治体で最大だったことを紹介。人口減少は数ではなく率でみるべしという議論はあるものの、市区町村別合計特殊出生率などのデータも引きつつ、高級ホテル進出ラッシュで地価が高騰し、住宅確保の難しい子育て世代が流出したのでは、と分析する。

 NHKのディレクターとして番組作りに携わった後、16年に研究の道へ。京都光華女子大教授を経て、20年から今の大学に勤める。郵便局巡りが好きで、図柄入りの消印収集を兼ねて全国を歩き回り、全市町村を訪れた。ジャーナリズムでの経験と旅好きの延長上に、今の仕事がある。

 観光学部で教えていて気になることがある。観光業界志望者や旅行好きが集まっているはずなのに、「海外に行きたいとは思わない」という学生がそれなりにいることだ。

 「現地へ行かなくても最新のITで海外旅行をしたような体験ができますから。ただ、においや雰囲気など行かないとわからないものもあるし、現地での体験がないと外国人との対話も深まらない」。何より、外国経験がないことで思考が内向きになることを懸念する。

 日本の「観光立国」は経済偏重だと指摘する。「文化交流や相互理解について考えているだろうか。『観光立国』の先にある、幸せな国のビジョンも必要です」(文・写真 星野学)=朝日新聞2024年12月21日掲載