1. HOME
  2. インタビュー
  3. 読みきかせで注意すべき著作権のポイントは? 絵本作家の上野与志さんインタビュー
PR by 文字・活字文化推進機構

読みきかせで注意すべき著作権のポイントは? 絵本作家の上野与志さんインタビュー

Photo by Getty Images

著作者が亡くなって70年経過した作品は「公有」に

――読みきかせ・朗読活動に関する著作権について、どのような点に注意したらよろしいでしょうか。

 まずお話ししておきたいのは、「自分が生み出した作品の世界を広げてもらいたい」「そのための読みきかせや朗読といった活動はどんどん進めてもらいたい」と考えている著作者の方がたくさんいるということです。ただし、著作者の人格的利益、経済的利益を損ずるような作品の使い方はやめていただきたい、お控えいただきたいということを頭に入れていただきたいと思います。

 日本の著作権法では、著作者が生存している期間に加え、亡くなってからも70年間、著作者の権利が保護されます。ただし、著作者が亡くなって70年を経過すると、著作物は「公有」、いわゆる国民の財産とみなされますので自由利用が可能になります。著作者が複数いる場合は全員が亡くなってから70年です。著作権フリーという状態になると、読みきかせも朗読も許諾なく自由に行え、それによって経済的利益を得ても構いません。作品を作り変えたり、改変を加えたりすることもできます。

――海外の作品に関しても同様でしょうか。

 はい。日本の著作権法で海外の作家の方もすべて保護されますので、日本の著作物と同じく、原則として亡くなってから70年間保護されます。また同様に亡くなって70年を経過すると、許諾なく自由利用が可能になります。ただし、日本は、第2次大戦の敗戦国家なので、戦時加算と呼ばれるペナルティが課せられています。連合国国民(米、英、仏など15カ国)の著作権については、戦争期間が加算され、最大約11年間延長されていますから、確認が必要です。また著者の作品が公有になっていても、日本の翻訳者の著作権がある場合が多いので気をつけてください。なお、翻訳者の著作権も、著者同様、死後70年間保護されています。

著作権者の許諾が必要になる場合を頭に入れておく

――読みきかせや朗読活動を実際に行う際、どのような点に留意したらよろしいでしょうか。

 「公有」になっていない著作物を利用して読みきかせや朗読を行う際は、許諾が必要になる場合が3つほどあるので、頭に入れておいてください。

 一つ目は、営利目的のために、観客から料金を取る場合です。タレントや読みきかせの専門家を呼び、「1人1000円ずついただきます」というようなものです。また朗読する方に報酬を支払う場合も同様に許諾が必要です。

 二つ目は、作品に改変を加える場合です。児童書の場合、人形劇やパネルシアター、紙芝居に改変されることがよくあるのですが、これらはすべて許諾が必要です。絵本で使われている絵を紙芝居にするのも「コピーしているから同じでは」とおっしゃる方もいますが、絵本として出版しているので、紙芝居にすることは改変になります。また絵を変形して使うだけでなく、文章を改変、ダイジェストして使う場合も許諾が必要です。

 三つ目は、オンラインで配信する場合です。これは基本的に公衆送信権という権利が働きますので、オンラインに関しては、ほぼすべて許諾を得る必要があります。

 この3点に該当していなければ、「公有」になっていない著作物でも許諾なく、自由に利用できます。なお、許諾が必要な場合ですが、その旨を伝えると、よく「じゃあ、ダメなんですね」とおっしゃる方がいます。でも、これは「ダメ」ではなく、「許諾がいる」だけです。許諾を求めてOKが出れば気持ちよく使用できますよ。

――作品の改変の話がありましたが、例えば時間が足りなくて本の文章すべてを朗読できず、抜粋した場合も改変になるのでしょうか。

 抜粋に関しては、改変にあたりません。「今日は第1章のこの部分を読みます」「今日は第1章と第3章だけ読みます」などと読む前にしっかり伝えれば、許諾を求める必要はありません。実際、長い物語の場合、そのような形をとっている方が多いです。

 ただし、「これは長いのでダイジェストしよう」と、抜粋した文章を勝手につなぎ合わせて1つにしてしまうことは良くありません。「今日は時間がないから、それに合わせてちょっと文章を変えよう」というのも翻案になります。翻案する権利は著作者が本来持っている権利なので、許諾がないとできません。「この表現は今、使われないから、表現を変えてしまおう」というのも翻案になります。よく大人向けの文学を児童文学にしている例がありますが、あれは著作者の了解をとっています。ただ、明治の文豪の作品などは著作権フリーなので、自由に書き換えることは可能です。

著作者団体と出版社団体で定めたガイドライン

――先ほど、朗読する方に報酬を支払う場合は許諾が必要というお話がありましたが、報酬ではなく交通費などだけ支払う場合でも許諾が必要なのでしょうか。

 この質問にお答えする前に、「読み聞かせ団体等による著作物の利用について」という手引についてお話しします。これは、児童書に関わる著作者団体と出版社団体でさまざまな協議をしてガイドラインを定め、まとめたものです。著作物の利用に関してさまざまな質問が寄せられていますが、それに合わせて何度か修正した改訂版をインターネットからダウンロードできます。読みきかせ・朗読活動の際に、ぜひご活用ください。

「読み聞かせ団体等による著作物の利用について」

 この手引の中に、ご質問の内容にお答えできる内容が記されています。「非営利の上演等」という項目に「実演・口述する人への交通費等の支払い、ボランティアの交通費・昼食代および資料費、会場費等のお話会の開催にかかわる経費に充当するために観客から料金を受ける場合は、無許諾で利用できることとします」とあります。この手引を読んでいただけたら、「このぐらいまではOK」という基準がある程度分かるのではないかと思います。

「著作物利用許可申請書」を使って出版社に問い合わせを

――出版社への問い合わせ方法について教えてください。

 先ほどお話しした「読み聞かせ団体等による著作物の利用について」の手引の4枚目に「著作物利用許可申請書」があります。これは、利用形態・目的、利用方法などを記入する箇所があり、非常に便利なフォーマットになっています。出版社に問い合わせて、必要事項を記入したこの申請書をお送りいただくとよいでしょう。

 また、申請書が必要かどうか分からない場合は、直接出版社に問い合わせた方が無難です。基本的に出版社のホームページには、著作権の取り扱いといった項目がありますから、その窓口に問い合わせをしたり、窓口がない出版社の場合は編集部へ連絡したりするといいでしょう。出版社にはこういった問い合わせが多く寄せられるので、話も通じやすいと思います。

――出版社や著作物によって違ってくると思いますが、許諾には時間がかかるのでしょうか。

 著作者がどこにいるのか、連絡先が分からないという場合もありますから、著作物によっては時間がかかるものもあると思います。海外に関しては有名な著作物については、ひんぱんに利用許可の申請が来るので許諾も早い傾向はあります。

 また直接、著作者に問い合わせようと考えている方もいますが、著作者が1人ではない場合や、イラストや写真の著作権などの問題もあるため、一括した対応ができる出版社に問い合わせた方がいいでしょう。

オンラインの場合はすべて許諾を得た方が無難

――オンライン配信については線引きが難しいところがあると思うのですが、いかがでしょうか。

 たしかに、線引きが難しいですね。オンライン会議ツールを使う場合も公衆送信になると思いますから。基本的にオンラインは表紙画像以外についてはすべて許諾を求める方がいいでしょう。

 ちなみに表紙画像については商品を明示しているものとみなされ、慣行上、無許諾で使用できるとなっています。ただし、変形はしないで、あくまでもそのまま載せるということに限りです。でも最近は「許諾が必要」という出版社もあるようです。「何をやっているかを知りたいから」というレベルなのではと思いますが、念のため、表紙画像を使う際も利用許諾を求める方がいいでしょう。

――オンライン配信については、ページをめくって本の中身を全て映している場合や、表紙だけ見せて後は文章を読むだけの場合がありますが、いかがでしょうか。

 本の中身を見せようが、見せまいが、オンラインを利用するのは同じです。オンラインは公衆送信権という権利を著作者が持っていて、アップロードするだけでも許諾が必要になります。ただ、許諾をもらえたら自由に利用できるので、許諾をいただいて堂々とやった方がいいと思います。

――読みきかせや朗読活動に対する出版社の対応について最近の傾向があれば教えてください。

 傾向ということはないのですが、先ほどお話しした表紙画像の使用許諾のように、出版社によって対応が分かれているところがあります。特にインターネットを利用する場合は、出版社によって意見が違う場合があるようなので、確認をした方がいいでしょう。

朗読活動をしている方は大切な「文化の伝達者」

――近年、読みきかせや朗読活動自体は増えてきているのでしょうか。

 オンラインでの読みきかせが増えている現状もあり、活動自体は増加傾向にあると言えます。それに合わせて、著作物の利用についての問い合わせも増えてきているように感じます。特に今まで場所を借りて朗読会をやっていた方が、オンラインを介するという形をとるようになると、「これは許諾が必要」という部分が出てきます。「どうしよう」と悩まれる方もいますが、そこでがっかりせずに、許諾を求めていただければと思います。

――これからの読みきかせ・朗読文化の活性化について、どのようにお考えでしょうか。

 読みきかせは前時代的というイメージもありますが、逆にこういう時代だからこそ、肉声で伝わる良さみたいなものが伝わってきて、活動がだんだん広まっている感じがします。昔から読みきかせ団体はたくさんありましたが、今も結構あります。皆さん、頑張っています。

 そういう方たちのところへ行くと、元気で楽しくやっているという印象を受けます。だからこそ、読みきかせ、朗読そのものが滅びていくようなことはなくて、むしろ肉声で伝わる分だけ、もっともっと発展していくのではないかと期待しています。

 私は、朗読活動をしている方は「文化の伝達者」だと考えています。朗読は古くから存在する文化の伝達方式です。作品を創作する方は文化の創造者の1人ですが、創造者だけでは文化は伝達されません。創造者と伝達者という両輪がないと文化は衰退していきます。朗読という根源的な伝達の仕方があることで、その文化が一層育っていくのではないでしょうか。インターネットの時代だからこそ、肉声で語る方式がさらに発展していってほしいと願っています。

条件をクリアすれば、誰でも読みきかせはできる

――読みきかせは、子どもたちにどのような影響を与えるとお考えでしょうか。

 親からの読みきかせというのがありますが、これは1対1の関係です。それに対して、大勢の前での読みきかせは、お友達も一緒にその時間・空間を共有しています。読みきかせの後で「あれ面白かったね」「私はこの場面が好き」「あの主人公面白いね」「いや、僕はあっちの悪役の方が好き」というように、みんなで同じ物語を共有することは、子どもたちにとって非常に有意義な体験になります。

 肉声で言葉を伝える。子どもたちは同じ物語を共有して感想を返す。大人もそれを受けとめて「じゃあ、これはどう?」「この時、どう思った?」と問いかけ、お互いにコミュニケーションが生まれる。このような関係は、頭の刺激になり、子どもたちの心も育っていきます。これが読みきかせの良さだと私は思います。だから、読みきかせをしている方を見ると、みんなうれしそうにしています。子どもたちから返ってくる反応が面白いんですね。

――最後にメッセージをお願いします。

 今回お話しした条件などをクリアすれば、誰でも読みきかせができると思いますので、読みきかせにチャレンジしたいという方がもっともっと増えていってくれたらうれしいです。そして読みきかせ・朗読文化が今以上に広まっていってほしいと切に願っています。

「おはなし会・読みきかせ著作権ハンドブック」

「おはなし会・読みきかせ著作権ハンドブック」

※このハンドブックは、おはなし会の活動をされている皆さまに向けて出版文化産業振興財団(JPIC)が発行しました。内容は、2023228日現在のものであること、法律は変わるものですので、ご自身で最新情報の収集が必要であることをご理解の上、ご活用いただけましたら幸いです。

上野さんご出演の文字・活字文化推進機構が2024年2月28日に実施したフォーラム「ことばを楽しむ ことばでつながる in 大阪」の開催概要は下記からご覧いただけます。

フォーラム「ことばを楽しむ ことばでつながる in 大阪」

本フォーラムは、一般社団法人授業目的公衆送信補償金等管理協会(SARTRAS)の共通目的基金の助成を受け実施されています。