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上岡直見さん「自動車の社会的費用・再考」インタビュー 正論言い続けるしかない

上岡直見さん

 『自動車の社会的費用』は48年前に世界的な経済学者・宇沢弘文が岩波新書で発表した論説だ。自動車の所有者・使用者は本来負担すべき費用を払っていない。金額は自動車1台あたり年に約200万円と計算した。その高額さと、社会的費用という新しい概念が議論を呼んだ。

 宇沢著からおよそ半世紀。1990年代の『乗客の書いた交通論』や『クルマの不経済学』以来、自動車を交通体系の中で批判的に考えてきた著者が「これまでの研究の集大成」として書き下ろした。

 半世紀間に様々な研究者が積み上げた論文を縦横に参照し、現代の社会的費用を計算し直したのがハイライトだろう。兒山真也・兵庫県立大教授の年24兆円という研究(『持続可能な交通への経済的アプローチ』)をベースに、コロナ禍で増加傾向のトラック物流による約6兆3千億円を追加。一方で、JR貨物は社会的費用の回避に貢献しており、3兆8千億円のマイナスと推計した。

 「宇沢先生の指摘にもかかわらず高齢者も自動車を運転せざるをえない『クルマ強制社会』になってしまった。電気自動車や自動運転など技術に頼る議論は的外れと考えます。このまま行ったらどうなるのか。議論があまりに不足している」

 移動の自由は基本的人権の前提ととらえる。力みを感じさせない淡々とした記述で、技術士(化学部門)らしくグラフや図表が多用されて分かりやすい。市民や消費者の側から科学技術の問題を考える時のお手本のように思える。

 自動車の社会的費用は、走行距離と密接に関連しているという。走行距離を減らすことで社会的費用を減らし、代わりに公共交通を充実させながら地域を形成していく。「そんな正論を言い続けるしかないのかなあと思っています」(文・村山正司 写真・大野洋介)=朝日新聞2022年7月16日掲載