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「月経の人類学」書評 当事者目線で眺める「社会現象」

評者: 磯野真穂 / 朝⽇新聞掲載:2022年08月13日
月経の人類学 女子生徒の「生理」と開発支援 著者:杉田 映理 出版社:世界思想社 ジャンル:社会・時事

ISBN: 9784790717683
発売⽇: 2022/06/15
サイズ: 21cm/302p

「月経の人類学」 [編]杉田映理、新本万里子

 特定の宗教を持たない私の母が「神がいるなら絶対に男」と呟(つぶや)いた。神が女なら生理をこんな風にするはずがない、というのである。数々の体調不良、月経血への対処など、とにかく生理は大変だ。女だけがこの大変さを背負う理由を、彼女は神の性別に求めた。
 一理ある――そう思ってから十余年、この大変さは、WHOとユニセフにより月経衛生対処(menstrual hygiene management:MHM)と定義され、社会として解決すべき問題と見做(みな)されるようになった。国連が2015年に採択したSDGs(持続可能な開発目標)達成の上でもMHMは欠かせない。隔世の感がある。
 とはいえ、なぜ月経は社会の問題なのか? 本書では多数の事例とともにそれが紹介される。
 例えばウガンダでは、バイクタクシーの男性が「ナプキンを買ってあげる」という言葉を呼び水に、女子と性的関係を持つことが日常茶飯事であった。彼女たちにとって、生理用品は高級品だからである。
 北インドのある中学校に通う女子は、ナプキンを交換するために早退をしていた。トイレは間仕切りだけで扉はなく、そこにはゴミ箱も水道もないからだ。また、月経血は不浄であるという考えのため、仮にゴミ箱を設置しても、生理用品があると回収してもらえないとの問題もあった。
 カンボジアでは学校が寺院と隣接していることが多く、学校にトイレがなかったり故障中の場合、寺院のトイレを借りるのだが、僧侶に経血を見られると「罰があたる」という考えがあり、女子は利用を躊躇(ためら)っていた。
 月経をめぐる問題を当事者の視点から眺めると、社会のあり方、共有される価値観、権力配分、それぞれの社会の方向性が見えてくる。生理現象は社会現象でもあることを、本書を通じて知ってほしい。学校教育、性教育の現場に必読の書である。
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すぎた・えり 大阪大教授。共著に『緊急人道支援の世紀』▽しんもと・まりこ 広島市立大客員研究員。