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「算数文章問題が解けない子どもたち」書評 つまずきの原因を明らかにする

評者: 行方史郎 / 朝⽇新聞掲載:2022年08月13日
算数文章題が解けない子どもたち ことば・思考の力と学力不振 著者:今井 むつみ 出版社:岩波書店 ジャンル:教育・学習参考書

ISBN: 9784000054157
発売⽇: 2022/06/16
サイズ: 21cm/212p

「算数文章問題が解けない子どもたち」 [著]今井むつみ、楠見孝、杉村伸一郎、中石ゆうこ、永田良太、西川一二、渡部倫子

 まず小学1年で習うという問題を解いてもらおう。正答率は3年生で3割に達せず、5年生でも7割台という「難題」だ。
 「14人の子どもが1列に並んでいて、ことねさんの前に7人いる。ことねさんの後ろには何人いるか?」
 「7人」と間違えるのは想像できるとしても「98人」という誤答がなぜ出てくるのかわかるだろうか。
 問題文に登場する数字に思いついた演算を当てはめているのだ(この場合は引き算と掛け算)。文章の意味を正確に理解できていない恐れはもちろん、出てくる数字をそのまま使えば答えが出てくるはずだという思い込みもうかがえる。
 こうした学習のつまずきの原因を個別に明らかにするためのテストを著者らは教育委員会の要請で開発した。「ことばのたつじん」「かんがえるたつじん」と名付けられた小学生向けの2種類のテストの中身は省略するが、その結果に分析や推察を加え、課題をあぶり出していく過程はどこか推理小説にも似ている。
 むろん子どもの「思い込み」には、それなりの理屈や法則性が備わっていることもある。目の前に並んだ硬貨を前に「53円ちょうだい」と言われ、まず1円玉5枚、次に10円玉1枚、最後に1円玉3枚を差し出したという1年生のエピソードには、そうした素直な発想をなんとか別に生かせないかと思ったほどだ。
 私は教育分野にはまったくの門外漢だが、いつの時代にも勉強が苦手な子はいたはずだ。「たつじん」テストでつまずきの原因が可視化される意義は大きい。
 ただ、著者らも「絶対見過ごせない」という強い表現で警鐘をならす「学習性無力感」の背景には今日的な課題がおそらく潜んでいる。自分はいくら勉強してもわからないというあきらめからか無回答で提出する子どもが成績下位層に多く、しかも高学年で目立つという。こればかりは教師の教え方やスキルで解決できる問題では到底ない。
    ◇
つまずきの原因を探るテスト開発は広島県教育委員会がチームを立ち上げ、著者らがメンバーとなって行った。