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「あなたはどこで死にたいですか?」書評 自宅で最期を迎えるのが難しい

評者: 行方史郎 / 朝⽇新聞掲載:2022年09月10日
あなたはどこで死にたいですか? 認知症でも自分らしく生きられる社会へ 著者:小島 美里 出版社:岩波書店 ジャンル:福祉・介護

ISBN: 9784000615501
発売⽇: 2022/07/12
サイズ: 19cm/208,7p

「あなたはどこで死にたいですか?」 [著]小島美里

 2年前、実家の父が亡くなった。晩年に認知症を患い、母が世話をするという典型的な老老介護だった。
 いよいよ母の手には負えなくなり施設入居も考え始めた頃、コロナの流行が始まった。逆に施設に入るのが難しくなり、住み慣れた家で、家族に見守られて逝った。これが幸運と偶然の結果だということを本書を読んでしみじみ感じる。
 単身や老夫婦世帯が増え、85歳を超えると4割の人が認知症になる。こんな時代、タイトルの問い掛けとは逆説的に、自宅で最期を迎えることがいかに難しいかが豊富な事例をもって語られる。
 そうなる理由は介護保険の使い勝手の悪さにもあるようだ。寝たきりや体の不自由な人をモデルに設計されたままで、周囲が困ってしまうような行動を繰り返す認知症向けの仕様にはなっていないのだという。
 介護保険を利用した人ならわかるだろうが、仕組みの複雑さや制約の多さに圧倒される。医療保険で受けられるサービスとの違いもよくわからない。と、思っていたら明確な境界線などそもそもないらしい。
 だから、父のケースもそうだが、ケアマネジャーに頼り切りになる。仕事の範囲が広く、多忙で責任も重い。それに報酬が見合っていないこともあり、なり手は増えない。慢性的に不足が言われて久しいヘルパーの高齢化も顕著だ。「60代は働き盛り」「80代も珍しくない」という「現場の感覚」にがくぜんとする。
 2000年に介護保険が始まって約20年がたち、著者は「前進せずに後退した」と辛辣(しんらつ)に評価する。ただ、支えられる側が増える一方、支える世代が先細りするのだから、構造的に限界があるのも確かだろう。
 著者は最終章で発想を百八十度転換させるような考え方を紹介する。一筋の光を見たと思うか、非現実的と感じるかは分かれるところかもしれない。政策決定に関わる人にこそ読んでほしい内容だ。
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こじま・みさと 1952年生まれ。高齢者や障害者の支援事業を行うNPO法人「暮らしネット・えん」代表理事。