SDGsの「心」を伝えるために
――最近、企業でも学校でもよく聞くようになったSDGs(持続可能な開発目標)。けれど子どもと話をするとき、貧困、エネルギー、気候変動などについて、自分ごととして考えてもらうのはなかなか難しい。そんなとき良いきっかけとなってくれるのが、絵本だ。「絵本でSDGs推進協会」代表理事の朝日仁美さんは、全国の絵本専門士に声をかけて『絵本で学ぶSDGs』(平凡社)を制作し、SDGsと絵本の講演を行っている。
SDGsという「言葉」は知られるようになりましたが、2030年までに達成したい17の目標として、これを子どもにちゃんと説明できる大人は少ないのではないかと思います。小学生向けに出ている本はあるものの、SDGsありきだと、どうしてもお説教臭くなりがちです。小さいうちから、すっと心に入るような話を家庭でしていくことが大事なのではと感じています。絵本を介することで、子どもや孫にわかりやすくSDGsの精神を話せる大人を増やすことができます。『絵本で学ぶSDGs』はそういう絵本の力を知って欲しくて、たくさんの作品を紹介させていただきました。
たとえば、『そらのうえのそうでんせん』(アリス館)という絵本は、送電線の点検整備をする様子を描いたお話です。その細かい作業の様子を追っていくだけで、電気が使えることが当たり前じゃないということが感じられます。
また、『からあげビーチ』(文響社)という絵本は、ポップなからあげ家族が海にやってくるお話です。日本では鶏のから揚げが主流ですが、アレルギーや宗教的な理由で鶏肉が食べられない人もいます。だからビーチに集まったからあげの中身は、タコや大豆ミートも……。お話の中で食の多様性が実感できます。
『きょうはおかねがないひ』(合同出版)は、貧困問題を取り扱った本ですが、幼い子はお金がないなりに「楽しいこと」を見つけようとたくましく生きていて、ただみじめなかわいそうなお話として描いていません。その中でもはっとさせられるシーンがたくさんあります。
これらの絵本を通して、子どもたちにSDGsって特別なことじゃないと知って欲しいです。「エネルギー」や「多様性」「貧困」というと難しい言葉だけれど、みんなの生活の中にあることなんだ、と絵本が教えてくれます。「これは地球にいいことだから絶対やらないと」という気持ちから入ると、なかなか続かないんですよ。それより、どうすればリサイクルできるのか考えたり、なぜこれが高価なのか・安価なのかを知ったり、何がみんなの幸せなのかを自分のこととして考えることが大切だと思っています。
絵本だから心にスッと入っていく
――『絵本で学ぶSDGs』の巻頭では、外務省職員で絵本作家の原琴乃さんが、子どもにもわかりやすいことばでSDGsについて解説している。子どもたちがいまできることは「もったいない」「ありがとう」「(行動する)勇気」の心を持つことだという。それは、出しっぱなしの水に「もったいない!」と親が叱りつけることではなく、どうしてもったいないのか、その意味や理由を自分のこととして理解すること。そうやって自分で考えて行動できるきっかけとなる絵本を厳選した。
本の制作に入る前に、(SDGsの本質をより多くの人に届ける役割を担う)SDGs for School認定エデュケーターでもある絵本専門士5人が、何日もかけて選書しました。とても悩ましかったですが、選びに選び抜いた約100冊です。そこに課題が隠れているとは一見わからないかもしれません。でも紹介した絵本はきっかけであって、そこから自分たちでも学んでくださったらいいなと思っています。紹介文は、絵本専門士や大学教授らが協力してくれました。絵本専門士にもそれぞれ専門分野があって、たとえば言語聴覚士の方は耳が聞こえない女の子の話を、保育士の方はみんなで笑って読み聞かせできる話を紹介しています。
――朝日さんが代表を務める「絵本でSDGs推進協会」では、子どもに向けたSDGs講座を開くとき、絵本の読み聞かせだけでなく、手を使うワークショップも入れている。実際に体験することで、意識はより深いものとなる。
動物園で講座をしたときは、ゾウのフンで紙すきをしました。ゾウのうんちペーパーで作られた絵本などを読み、ゾウの生態や物の循環を知るとともに、紙を作るのって大変なんだ、こんなに材料が必要なんだと実感した子もいました。そして、最後に「帰ったらこういうお話を聞いたよって、一人でもいいから誰かにお話ししてね」と言っています。この動物園講座のほかに、海や陸の豊かさがわかる街のジオラマ作りに繋げていったアート教室など、SDGsの絵本+体験講座の例も、本の中でいくつかご紹介しました。
絵本を読んでもらうという楽しい体験の延長線上にSDGsがあると、すごく理解が深まり行動にも移せるのではと思っています。SDGsは、教科書や参考資料で学ぶことだけにしないで、知ったことにより、学び心を動かすことが大切かと! それが、子どもたちの生きる力につながってくれればと願っています。